小夜啼鳥が愛を詠う

飄々と言ってるけど、かなり大変な状況だったんじゃないだろうか。

「そうだったんだ。大変だったんだね。……じゃあ、いつ憑き物が落ちたの?」

今、僕の目の前にいるのは、以前と変わらない宗真さんだ。

「んー。そやな。涼花(りょうか)が妊娠してるんやけど……その子ぉが男ってわかった時かな。」

え!

「すごい!おめでとう!すごいすごい!……よかった……そっかぁ。ほんと、よかった……。」

何だか泣けてきた。

宗真さんはうれしそうにほほえんだ。

「ありがとう。まあ、高齢出産やから、大事をとって涼花は入院したまんまやけどな。別棟に両親いてるし、弟子も家事してくれるんやけど、やっぱり不便でなあ……しまってた装束を探すために蔵に入って、じーさまの古い日記とか帳面を見つけたんや。したら、それ。どう見ても、光やろ?もしかしたら、光の探してる祖父が俺のじーさまかも、って。」

そこまで言って、宗真さんは僕の髪についていたらしい落ち葉を取ってくれた。

「……一瞬、期待した。でも、違ったみたいや。」

優しい瞳だった。

「どうして違うって思うの?」

DNA鑑定でもしたというのだろうか。

宗真さんは、苦笑した。

「計算が合わへんからな。歌舞練場の式典の日が、彩瀬に会うた最後らしいわ。招待客にじーさまの名前があるのは、さっき見せたあの式典が最後やった。」

あれは……そうか、あやちゃんが亡くなる3年ほど前の年だったな。

「……そっか。残念。でも、ありがとう。気にかけてくれてて、うれしい。……このまま、もう逢えないのかと思ってた……。」

ポロリと本音がこぼれ落ちてしまった。

気恥ずかしくて、慌ててうつむいた。

「そんなつもりはなかったけど、……そのほうがいいんかもな。」

悲しいくらい優しい声だった。

顔を上げると、宗真さんの慈愛に満ちた瞳が僕を見ていた。


……そっか。

僕だけじゃない。

宗真さんにも……気持ちの変化があったのかもしれない。

もはや、僕たちは、罪悪感なしにお互いの身体を貪ることはできない、ってことか。

「……男とも浮気しないことにしたの?」

敢えて笑顔でそう聞くと、宗真さんもまた笑顔でうなずいた。

……願掛けでもしたのかな。