小夜啼鳥が愛を詠う

冗談のつもりだった。

でも菊乃天人は、いたって真面目に首を傾げた。

「わからへん。」

……否定できないのか。

腰がおよびそうなので、質問を変えてみた。

「またいとこ、ってことも言っていいの?……ずっと、隠してたんでしょ?……はなちゃんに、遊女の姉妹がいたこと。」

たとえ内実はドロドロしてたとしても、傍目からは家元って言ったら名家だろう。

現在の家元の叔母にあたるヒトが遊女というのは……やばすぎるよな。


菊乃天人は、うなずいて、それから僕を見た。

「うん。……でも、光を見たら一目瞭然だと思う。とーさまにも、おばあちゃんの若い頃にも、似てるもん。」

……僕は、まだ画像や映像でしか知らない菊乃天人のお父さんのお顔を思い出した。

中性的な艶のあるイケメンで、確かに似てると自分でも思う。

実子の咲弥くんより、僕のほうが似てるかもしれない。

「草葉の陰でおばあちゃんが嘆いてるね。……僕と出会わなければ、話題にもならなかったのに。」

死んだヒトの秘密をあばくことにためらいを覚えて、僕はそう自嘲した。

でも菊乃天人は、首を横に振った。

「……あやちゃんは、喜んでる。だから、おばあちゃんも納得してくれると思う。……てゆーか!うちらのご縁を否定するようなこと、言わんといて。出逢うべくして出逢ったんやで?」

菊乃天人の強い意志に、僕のためらいは屈服する。


……敵わないな。

君はすごいよ。

これからも、こんな風に、菊乃天人は僕を揺り動かすのだろう。

振り回されることに充足を覚える不思議な関係。


恋心って、不思議だ。

それまでの主義主張も、常識も、君の前では歯が立たないんだから。

「好きだよ。我が天人。」

突然そんな返事をした僕に、菊乃天人は目をぱちくりさせた。

「……前もそう呼んだ。私、天人みたいに飛んでってしまわへんけどなあ。光こそ、涼しい顔して他のヒトにも手を出してそう。光だし、光源氏みたいに。」

まあ、否定はできないか。

心は一途なつもりだけど、性的関係は奔放だったのは認める。

でも、それって……満たされてなかったからなんだと今ならわかる。