小夜啼鳥が愛を詠う

菊乃天人は、僕の広げてるプログラムをめくって、指さした。

「日本人やで。ほら、このヒト。燈子さん。かーさまの中学の時からのお友達やねん。小さい頃からコンクールで入賞するぐらい上手なバレエダンサーやってんけど、怪我で飛べへんくならはってんて。でも踊ることが好きやから、とーさまに弟子入りしはってん。」

支部紹介と題字されたページには、バレエスタジオのような部屋でいろんな人種の生徒に舞を教えている、すっとした美人さんが写っていた。

長くて白い首が、元バレリーナ!というのを如実に物語っているように見えた。

「へえ。……うわぁ、黒いヒトが赤い振袖着てるの、何か、不思議。……でも、綺麗なもんだね……。」

似合わない。

似合うはずがない。

でも、何故か美しかった。

ちゃんと基礎ができていて、着物を着慣れてる感がするからだろうか。


「……なるほど。イイ先生っぽいね。舞ちゃん、この先生とは仲良くやっていけてるんだ?」

「うーん……仲良くまではいかないと思う。燈子さん、舞に関してはおばあちゃまよりストイックみたい。でも、優しいヒトなんやって。踊れなくならはった経験があるから、踊りたくても何らかの理由で踊れへんヒト、踊る場がないヒトに対しては特に親身になってくれはるみたい。」

「へえ。それで、舞ちゃんも発表会だけに出してくださるんだ。……ほんと、親切だね。そっか。」


もう一度、プログラムに目を落とした。

よく見ると、人種のるつぼのようなその写真には、ちゃんと舞ちゃんも写り込んでいた。

「……舞ちゃん……笑ってる……。」

なんだか、ホッとした。

これなら大丈夫じゃないか?

「うん。向こうは実力主義やから。舞ちゃん、上手いし、みんながフレンドリーに接してくれるんやて。……にーさまは、そーゆーフランクな雰囲気が嫌いやから、ニューヨークから外国のかたが研修にいらっしゃるの、苦手やねん。」

菊乃天人はそう言って、パラパラとまたページをめくった。

「はい!はい!これ!」

それは今年の5月の発表会の舞台写真のページだった。

小さいけれど、菊乃天人が写っているようだ。

金色の烏帽子をかぶり、天秤を担いでいる。