小夜啼鳥が愛を詠う

同じ頃、警察が資料を返却した。

……けど、組事務所ではなく、本来の所有者、つまりかつて置屋を経営していたお家に戻ったようだ。


結局、僕が自分で所有者と交渉し直すことになるのかな。

荒沢さんと舞ちゃんは、忙しそうだ。

組長の留守中の運営は、系列の幹部達が中心になっているらしい。

2人の居場所はもうそこにはないのかもしれない。


あらゆる事態に備えて、舞ちゃんの身の振り方は準備万端……らしいんだけど、計画はあくまで計画。

舞ちゃんは、お父さんと離れる踏ん切りがなかなかつかなかったみたいだ。


結局、面会したお父さんの指示に従って、舞ちゃんは日本を離れることになった。

菊乃天人の舞台が終わったら、ニューヨークへ飛ぶそうだ。



「どうしてニューヨーク?」

別にどこでもよさそうだけど……。

「あれ?言うてへんかったっけ?舞ちゃん、毎年、夏休みはニューヨークやもん。」

発表会まで1週間を切った11月半ば、菊乃天人は僕にプログラムをくれた。

そこに、舞ちゃんの名前はなかった……。

「うん。聞いてない。」

……興味もないけど……と、心の中で付け加えてから、プログラムをパラパラとめくった。

「舞ちゃん、あんなに一生懸命、舞のお稽古をしてるのに、発表会にも出られないんだね……。」

関係者や協力者にも関与してないことを確認してからそう言ったら、菊乃天人は目を白黒させた。

「え……。うっとこに出入りできひんくなったから、発表会も出られはらへんよ、日本では。……せやし、ニューヨーク。」

「ニューヨークの発表会に出てるの?舞ちゃん。」

そんなもん、あるのか!

「菊乃さんも?ニューヨークで舞うの?」

驚いてそう尋ねると、菊乃天人は困ったようにパタパタと手を振った。

「いやいや。私はお呼びじゃないし。……何年かに1回、とーさまとかーさまが行く程度。そのうちに、にーさまが行くかも。……うっとこ主催じゃないねん。とーさまのお弟子さん主催。」

「へえ。お弟子さん……アメリカ人?……ねえ、外国のかたも着物で舞うの?」

白人さんも黒人さんも、着物が似合うとは思えないんだけど……。