小夜啼鳥が愛を詠う

宇治のお家で、舞ちゃんは泣いていた。

荒沢さんは、電話やメールで情報を集めて、対策を講じているところだった。

「菊乃ん……。パパ、逮捕されちゃう……。」

菊乃天人にしがみついて、舞ちゃんは泣きじゃくった。

いつもなら、フォローなり否定なりしてくれそうな荒沢さんは、黙ってうつむいた。

これは……マジで逮捕なのか?

「舞ちゃん……。」

かける言葉もないらしく、菊乃天人は舞ちゃんを抱きしめて一緒に泣いていた。



しばらくして、荒沢さんが落ち着いた声で言った。

「明日、こちらにも捜査員が来るようです。お嬢さん、宿を押さえましたので参りましょう。」

「……いつまで?」

舞ちゃんの問いに、荒沢さんは答えられなかった。




荒沢さんと舞ちゃんの車を見送ってから、菊乃天人は僕に謝った。

「……ごめんなさい。資料も、持って行かれちゃうかも。」

「え?……資料って……え?」

「うん。光の見たがってた資料。先週かな、荒沢さんが、まとめて借りてきてくれはってん。……私の発表会が終わったら、光と一緒に見せてもらおうと思っててんけど……こんなことなら、先に光に見てもろたらよかった……。」

……そうだったんだ。

いや、忘れてたわけじゃないけど……どうでもよくなってたわけでもないけど……優先順位が下がっていたかも。

「いや、いいよ。たぶん先週聞いてたとしても、僕も、菊乃さんの発表会が終わってからでいい、って言ってたと思う。……それに、押収されても、いずれ返してくれるでしょ?……舞ちゃんのお父さんだって……不起訴ですぐ帰って来るんじゃないの?」

暢気に僕はそう言った。



けど、事態は深刻だった。

菊乃天人を自宅に送り届けた後、すぐにネットニュースで組長逮捕を知った。

詳細はわからないけれど、やはり麻薬の売人のタレコミからの家宅捜索だったらしい。



……後から荒沢さんから聞いたところによると、あるべきはずではないところからかなりの量の薬を発見されての組長現行犯逮捕だったらしい。

事務所に出入りする誰かの仕込みだったようだ。

組構成員の裏切りかもしれない。

出入り業者や、菊乃天人、僕のことも疑う構成員もいたようだ。


結局、真実が明かされないまま……関係施設への警察の捜査が終わった。

すぐに舞ちゃんは荒沢さんと宇治のお家に戻った。