小夜啼鳥が愛を詠う

『もしもし!今どこ?近くにいるの?』

「うん。……あ。ほら、前に声かけられた目つきの悪い警察官も、ちょっと離れたところにいらっしゃるよ。」

『……二課のおっちゃん?……ほな、踏み込んだんは、二課じゃないんや。……三課か……。』

そうつぶやいて、菊乃天人は舌打ちした。

「舌打ちは、お行儀悪いよ。」

思わずそう注意してしまった。

『もう!こんなときに、そんなの、どうでもいいし。……舞ちゃん、居合わせてへんといいんやけど。』

「うん。それが心配で。」

何がどうなってるのかわからない。

でも、もし、舞ちゃんの父親や荒沢さんが逮捕されたら……舞ちゃんの心は壊れてしまわないだろうか。


『……わかった。そっち行く。舞ちゃんに連絡してみる。』

菊乃天人はそう言って電話を切ってしまった。


……そっち、行く?

いや、まだ文化祭真っ最中だろ。

そんな……いいのか?


びっくりしたけれど、菊乃天人は本当に来てしまった。

肩で荒い息をして、汗をたらたらと流しながら……。

「光……。舞ちゃん、宇治に荒沢さんといるって。お願い。連れて行って。」

もう宇治に行ってたのか。

そうか……よかった……。

「うん、わかった。……宇治は、大丈夫って?」

つらそうな菊乃天人の手を引いて、駐車場に戻り、助手席に乗せた。

駐車料金を払うついでに、自販機でスポーツドリンクを買って車に戻った。

「はい。どうぞ。……学校、大丈夫?」

菊乃天人は、ホッとしたように僕からペットボトルを受け取ると、もう片方の手で僕の腕を掴んだ。

「ありがとう!ごめんなさい!」

……必死の形相がかわいくて……こんな時なのに、僕は……グッときた。


参ったな。

コロコロ変わる表情と感情、ついでに言葉遣いと態度。

その全てが愛しいと言えば嘘になる。

あまりにも下品な言葉や悪態は、やっぱり是正してほしいと思う。

でも……こんな顔をされたら、もう……そんなこと、どうでもよくなってくる。

いや、どうでもよくはないか。

愛しさがはるかに超越してしまって、僕は、やっぱり、もう、全てを許してしまうのかもしれない。