小夜啼鳥が愛を詠う

思えば、我ながら身勝手なものだ。

菊乃天人と心が通わない歯がゆさを、宗真さんに愚痴ろうとでもいうのだろうか。

……できるわけない。


僕は諦めて、あのセピア色の街へと行ってみた。

以前、菊乃天人が言っていた茶房を訪ねる。

かつてお茶屋さんの看板をあげて貸座敷業をしていたお店だ。

廊下の赤い絨毯や、旅館の部屋より狭い個室は、改装を重ねていても生々しく感じた。

……なるほどな。

菊乃天人は、このお店の存在を僕に教えてはくれたけれど、自分自身は、あまり行きたくなさそうだった。

まあ確かにココは……遊女や客の想いが残存しているような気がする。

あまり考えたくはないけれど、あやさんもこんなキッチュなところで春をひさいでいたのだろう……。

両肩がずしんと重くなったような気がした。

……滅入りそうだな。

帰ろう。

せっかく来てはみたけれど、僕はコーヒーを1杯おとなしくいただいて、お店の人と特に話すこともなく店を出た。


車を停めたパーキングに戻ろうと歩いていると、通りの向こうが騒然としているのが目に入った。

……え?

驚いて、足を止める。

大勢の……アレは、なんだ?

銀色の大きな盾を持った警察官?……まるで軍隊か機動隊のような物々しい屈強な男達がバリケードを築くかのように集団で固まっている。

あそこは……まいちゃんのお家……つまり、指定暴力団の組事務所だ。

怒声、衝突音、無線の音……。

見えないけれど、警察が踏み込んだのかな?

発砲事件でも、あったのだろうか。

遠巻きに眺めている地元のヒトに何があったか聞いてみたいけれど……何となく憚られる気がした。

この街であの組がどういう存在なのかを考えると、僕がどれだけ心配してると言っても、野次馬の域を出ないかもしれない。


……いや。

舞ちゃんのことは、ほっとけないか。

菊乃天人に知らせたほうがいいかな。

さっきあんな別れ方をしたばかりだけれど、緊急事態だ。

僕はすぐにメールを送信した。


<舞ちゃん家に警察が踏み込んでるみたい。今は取り込み中かもしれないけれど、心配だから、連絡してみて。>

菊乃天人は、間髪入れず電話を寄越した。