小夜啼鳥が愛を詠う

「んー、まあ、そうかもね。僕の余暇、全部菊乃さんに注いでるから。他のヒトと遊ぶ時間、ゼロだし。」

実際、誰とも、してない。

誘いは全て断り、夜遊びにも抜け出さず……我ながら、なんて品行方正なんだろう。

でも菊乃天人は口をとがらせた。

「……でも、私と一緒にいる時間より……彼女といる時間のほうが長いやん……『さっちゃん』。」

「そりゃ、大学の行き帰りと、講義と、一緒だから。それは仕方ない。……でも、今は、さっちゃんに触れることもないよ。」

僕にとっては潔白を主張する発言だったはずなんだけど……何故か菊乃天人は過敏に反応した。

「はあ!?仕方なくないわ。なんなん?ムカつく。」

「……言葉が乱れてるよ。」

ムカつかれても……と、取り扱わずに矛先をかわす。

菊乃天人は少し赤くなって、僕の手を振りほどいた。

やれやれ、と僕は肩をすくめて見せた。


機嫌を取るのはやぶさかではないけれど、譲れないことは曲げられない。

今さらさっちゃんとの仲をとやかく言われても、何もないんだから。

ただ、弟の薫のためにも、さっちゃんを守りたい。

それだけが僕に残された責任だと思ってる。

……なんて言っても、理解してもらえないだろうなあ。


さて、どうするか。

本当は肩を抱き寄せて、ちゃんと話したい気もするけれど、ココは女子校。

気がつけば、なんとなく……周囲の視線を集めてるかもしれない。

諦めて、僕は菊乃天人だけに聞こえるように小声で言った。

「今日は帰るよ。機嫌が直ったら、連絡して。」

じゃあね、と笑顔で声を張って手を振った。

今にも泣き出しそうな顔になってしまった菊乃天人によそゆきの笑顔を残して、僕はその場を離れた。

振り返って、もう一度手を振って、円満な辞去を周囲にアピール。

菊乃天人も、軽く手を振ったけれど……あれ?別人?

色を失った顔色も、暗い瞳の翳りも、菊乃天人じゃないみたい。

……あやちゃんが降りてきたかな?

多少気になったけれど、戻る気にもなれなかった。



女子校を出ると、何となく解放感。

……本当は、菊乃天人が自由になるのを待って、一緒に宇治へ行き、お稽古場につきあう予定だった。

さて、どうしようかな。

資料館にでも行ってみるか。

……宗真さん、どうしてるかな。