小夜啼鳥が愛を詠う

お茶というから、てっきりカフェにでも行くのかと思ったら、茶道部のお茶席だった。

「タダでお菓子とお茶もらえるねん。ラッキー。」

菊乃天人は、うれしそうにひな菊をかたどった生菓子を食べていた。

僕にもたらされた練りきりは、黄色く色づいた紅葉の形をしていた。

お茶席というあらたまった静かな場所では、菊乃天人は凜としたよそゆきモードになる。

美しい姿勢と所作は、ため息が出るほどに完璧だ。

気を抜くと見とれてしまう僕は、意識して茶道部員のつたないお点前に視点を固定した。



お茶席を出たところで、男性教諭が菊乃天人を呼んだ。

「芳澤。来年、『通円』するって。観たがってたやろ?」

つうえん……?

演目?

「え!ほんまですか!誰?」

菊乃天人の目がらんらんと輝いた。

でも男性教諭の挙げた能楽師さんの名前にはあまり興味がなかったらしく……すーっとテンションが下がってくのが手に取るようにわかった。

「……まあ、そういうこっちゃ。池上さんやなくて残念やったな。」

苦笑する男性教諭は、改めて僕に視線を移した。

「親戚?」

僕は曖昧に苦笑して会釈しておいた。

……なるほど……見覚えがあるぞ。

ワキ方の能楽師だ。

「徳丸先生、ほな、お席2枚お願いします。……一緒に行くやんなあ?」

菊乃天人の誘いは強引だったけれど、僕に異存はなかった。



「さっきの……徳丸先生?の話……宗真さん?宗真さんのお父さん?……菊乃さんが観たいのって……。」

グランド横のスタンドに並んで座り、少林寺拳法部の演舞を眺めながらおもむろに尋ねた。

「……。」

すんなり答えないところを見ると、宗真さんだろう。

相変わらず、宗真さんの話題になるとむっつりと黙り込んでしまう菊乃天人に、僕は苦笑した。

「……宗真さん、どうしてるかな。連絡ないんだよねぇ。」



あの日……宗真さんが滋賀の寺院の能舞台で急な代役を勤めたと聞いて、夜にメールした。

いつもなら、その日のうちは無理でも翌朝には必ず返信をくれる宗真さんが、数日間なしのつぶて。

やっと届いたメールには
<ごめん。今、きつい。落ち着いたら、こっちから連絡する。>
とだけ記されていた。

……何らかのトラブルが発生したのか……僕との距離を置きたいのか……。