小夜啼鳥が愛を詠う

調子に乗ってるなあ。

……かわいいけど。

「いいよ。でも毎日は無理。純喫茶マチネのお手伝いもあるから。それに講義が始まったら、平日はほとんど無理だと思うよ?」

「ほな、休みの間だけでも!2日に1回。お願い!」

そうだな。

あの街の資料を見せてもらうのも……発表会が終わってからでもいいかな。

何となく、このご縁が今つながった時期的な意味がそこにあるのじゃないかと、僕は考え始めていた。



大学の後期の講義が始まるまで、僕は本当に2日に1度、わざわざ宇治まで出向くことになった。

マスターには冷やかされるし、菊乃天人のひいおばあちゃんには
「優雅でよろしおすなあ。」
と、顔を合わす度に当てこすられた。

ただ、僕の存在が、逃げ腰だった菊乃天人の舞に対する意識を変えていることが目に見えて形となって顕れてくると、もう何も言われなくなった。



「何の魔法を使わはったん?」

10月に入ってすぐ、菊乃天人のひいおばあちゃんにそう聞かれた。

「何も。……僕は、ただ見てるだけです。」

舞ちゃんも出入りしてるので、実際に、僕は何もしなかった。

菊乃さんが、あやちゃんの存在を感じて萎縮しそうになる度に、笑顔で手を振っただけだ。


大丈夫だよ。

ココで見てるよ。

……ただそれだけのアピールで、菊乃さんは、あやちゃんから逃げずに踏ん張れるようになった。


そして、あやちゃんの心に同調し始めたそうだ……。


菊乃さんの舞が変わった。

深い悲しみと淋しさ。

いつしか、菊乃さんの舞に、あやちゃんの魂が宿った……。




「……あやちゃん、好きなヒトをずっと待ってたんだって。『砧』の女の気持ちに共感するみたい……。」

招待された女子校の文化祭で、セーラー服の菊乃天人は、綿菓子をちぎって食べながら、僕に話してくれた。

「誰を?恋人?……極道のお兄さんって聞いてるけど。」

「恋人と言えるのかな。舞ちゃんの組に入ってきたばかりの若い構成員さん。……自分でお花代を出しても、そのヒトとの時間を過ごしたかったんだって。」

ホロリと、菊乃天人の澄んだ瞳から涙がこぼれた。

ギョッとして、慌ててハンカチを手渡そうとした。

「……ん。」

菊乃天人は綿菓子で手が一杯をアピールして、目を閉じて僕のほうに顔を突き出した。