小夜啼鳥が愛を詠う

「そう。よかった。……うん。僕のほうは、いつでもいいよ。でも、そうだね……菊乃さんの舞台が無事に終わってからにしよっか。」

『え……。』

菊乃さんは、絶句したようだ。

……距離を置かれたとでも勘違いしたのだろうか。

慌てて言葉を継いだ。

「体育祭も文化祭もフル参戦できないほど、大事な舞台なんでしょう?あやちゃんとも仲良くなるチャンスだし、向き合ってみなよ。……僕も手伝えることがあるなら手伝うから、さ。」

菊乃天人は、僕の意を測りかねているらしい。

『……光がお稽古を見守っててくれるの?』

そう聞かれて、ちょっと僕はたじろいだ。

……確かに、菊乃天人のお母さんや、前家元のひいおばあちゃんとはもう逢ってるけど……現家元のお父さんやゲイのお兄さんは……大丈夫なのか?

「お邪魔して……いいのかな……。お母さんたちに聞いてみて?」

ほんの数日前にお父さんには内緒と言われたばかりだから、まあ、無理だろう……。

そんな僕の思惑は、菊乃天人の明るい声で霧散した。

『大丈夫!ほな、宇治で舞ちゃんと一緒にお稽古すればいいねん!』

「え……菊乃さんとこも、宇治に稽古場、あるの?」

宇治って……そんなに要所なのか?

『ううん。うちじゃない。舞ちゃんが前にママと住んでたお家。和室が二間続いてる昔の家やからお稽古場にしてはるねん。……うちに舞ちゃんが来ると……うるさく言うかたがたもいらっしゃるから。』

あ~~~。

まあ、そうだよな。

舞ちゃんの送迎はコワモテのお兄さん達だろうし……、このご時世、彼らが家元周辺をうろつくだけでも、警察はともかく、マスコミにあることないこと書かれてしまいそうだ。

「じゃあ、舞ちゃんだけ、宇治でお稽古してるの?」

『私も一緒。それに教えてくれはるんも、とーさまじゃなくて、おばあちゃまやねん。せやし!光も来て。』


菊乃天人のかわいいおねだりに、僕が抗えるわけがなかった。


「いいよ。いつお稽古してるの?」

『んー、変則的。とーさまは家で日曜日だけ。宇治におばあちゃまが来てくれはるのは週1回で、舞ちゃんと2人でお稽古するのはもう2日プラスって感じ。発表会前やから増やそうかな。光が来てくれるなら、毎日でもいいで。』

菊乃天人はうれしそうにそう言った。