小夜啼鳥が愛を詠う

日曜の夜にしては、意外と渋滞にもつかまらず、ゆきぼんを空港へと送り届けることができた。

「菊ちゃんが成長するまで、停戦協定結びませんか?……手を出さない、って。」

ゆきぼんは、そう言って僕をじっと見た。

「……まあ、もともとそのつもりだけど。僕、ロリコンってわけじゃないから。ゆきぼんも、抜け駆けしちゃダメだよ?」

僕からもそう釘を刺した。

ニッと、ゆきぼんは笑ってみせた。

「よかった!……別に今時、処女性にこだわりませんけど、女は子宮で恋するってゆーから。距離も、忙しさも、光お兄さんにかないませんからね。」

……。

ゆきぼんも、菊乃さんに本気のようだ。

よくわからないけど、ライバルなのか?

「……ゆきぼん、モテるだろ?どんな女の子も選り取り見取りだろうに……どうして菊乃さんを?」

そう尋ねると、ゆきぼんは肩をすくめた。

「光お兄さんもモテるでしょ。今の質問、自分で説明できる?……理由なんか後付けですよ。尊敬する師匠の娘さんだし、もっと舞えるはずなのに舞おうとしないことも歯がゆくて心配だし、僕に対してきっついところも却って爽快だし。」

確かにそうだな……と、僕は苦笑した。

「そうだね。僕も、理由もよくわからないまま惹かれてるかもしれない。こればっかりは、しょうがないね。」



……そうだ。

仕方ない。

それが恋というものなのだろう……。



一目惚れ、というのは便利な言葉だな。

恋を端的に理由付けできるんだから。



菊乃天人は、僕に一目惚れしたと言った。

僕は……僕の恋は……どこから始まったのだろう。

無条件に、僕のモノだと思い込んでいたぐらいだから、恋してることは間違いない。

この、ゆきぼんの存在にぴりぴりするのも、恋の証明だろう。



……さっちゃんの時とは違う……わくわくと、不安と、彼女に対する飽くなき興味。

今、こうしていても、さっき別れた菊乃天人のことが気になって仕方ない。

これが、恋……。



ゆきぼんは、僕の車から降りるとすぐ携帯をいじった。

……思わず、僕も負けじと菊乃天人にメールを送信した。


<今、ゆきぼんを空港におろしたよ。彼、いい奴だね。>


馬鹿馬鹿しい……子供のような競争心は、僕にとって初めての体験だったけれど……それすら、わくわくと楽しいものに感じた。