小夜啼鳥が愛を詠う

かつて、お父さんは安全性を重視して新車のボルボをおじいちゃんにねだったそうだ。

でも、僕は……新車を買ってもらうことを気兼ねしたわけじゃないけど……倉庫に何台もの古い車が眠っていることが気になってしょうがなかった。

博物館に展示できそうな戦前・戦後のフィアットもある。

このアルピーヌが動かなくなったら順番に乗ってくつもりだけど……大きすぎるのは却って不便だよなあ。

どこで聞きつけたか、ディーラーや好事家から購入の引合もあるらしいけど……まあ、売り払うことはないだろうな。

弟の薫は合理的だから旧車より新車に乗りたいだろうし、さっちゃんも興味があるようには思えない。

うちの旧車だけじゃなく、マスターの旧車も、そのうち僕が管理することになるのかもしれない。


「家にあるんですか!いいな~。俺もいずれ……とは思うけど……買うとたっかいだろうし、メンテも燃費もかかるんしょうねえ。」

ため息まじりにそう言うと、ゆきぼんくんは前方に少し回った。

「ボンネット……上げて、見せてもらっていいですか?」

驚いたな。

エンジンにも本当に興味あるんだ……。

「いいよ。……でも詳しくないから、僕に解説求めないでね。」

ゆきぼんくんはうれしそうに何度もうなずいて、ボンネットを開けた。

……車体が揺れたことに驚いたらしく、一瞬、菊乃天人が顔を上げた。

彼女は僕を睨むと、中指を立てて怒りを表現して、また助手席の足元にもぐった。

下品すぎるポーズを平気でして見せる菊乃天人に一瞬呆れたけれど、……たぶん深く考えてないよな……。

Fuck you!……か。

確かに、犯されるなら、ゆきぼんくんより菊乃天人に押し倒されたいなあ。


ゆきぼんくんはじっくり見て、納得してくれたらしい。

「あの、写真撮っていいですか?ブログとかツイとかにはアップしないんで。」

既にスマホをかまえながら、僕にそう確認した。

「うん。いいよ。」

そう言ったら、ゆきぼんくんは写真を何枚も撮ってから、札入れらしき物をふところから取り出した。

「ありがとうございました。これ、俺の連絡先です。……よければ……いつか、ご自宅の旧車コレクション、見せてください!」

そう言って彼がくれたのは、和紙っぽい紙の名刺だった。

「えーと、中村……如矢(ゆきや)くん。……いいけど、コレクションなんてたいしたもんじゃないよ。ほんっとに、古い輸入車が放置されてたってだけのものだから。」