小夜啼鳥が愛を詠う

ゆきぼんはこっちへまっすぐ向かってくる。

遠すぎて菊乃天人を認識したとは思えないけど……でも、明らかに目的意識を持って来るようだ。

なんだか彼の目がキラキラしてる……気がする……。

「菊乃さん。まずいかも。……あ。目が合った。……合ってる。合ってる。……笑いかけてるよ、僕に。」

「……あかんで!ゆきぼん、男もいけるで!無視して!無視!」

ゲイじゃなくてバイ……か。

あ~……それっぽいな。

まあ、ヒトのことは言えないけどさ。

でも、これ、そういうんじゃない気がする。

この笑顔は、僕に対する興味じゃなくて……


サイドミラーのすぐ前に立ち止まると、ゆきぼんくんは軽い会釈のようなお辞儀をした。

そして、人差し指をくいくいと曲げて……たぶん窓を開けろとゼスチャーしてるのだろう。

「窓、開けろって。」

一応小声でそう伝えたけれど、菊乃さんは

「知らん知らん。」

と頑なに出てこようとしなかった。


僕は仕方なく、窓を開ける。

当然パワーウィンドウじゃないのでスマートじゃない。


「……車、邪魔でしたか?すぐどけますね。」

どう見ても無免許の中学生か高校生ぐらいだけど、そんな言い方でこの場を逃げようとした。

でも、ゆきぼんくんは明るく言った。

「えー、待ってくださいよ。ちょ、見せてもらっていいですか!?これ、アルピーヌ・クーペっすよね?すげぇ……。」

おやおや。

ゆきぼんくん、車に興味があったのか。

「うん。古いばっかりで不便だけどね。……旧車好きなの?」

僕の声も知らず知らずのうちに弾んでしまった。

菊乃天人が小さく舌打ちしたのがわかった。

……はいはい。

このままゆきぼんが運転席の横まで来たら、菊乃天人は丸見えだな。

仕方なく、僕はすばやく車から降りて、ゆきぼんくんと少し立ち話をしてみた。



「神戸ナンバー。かっこいー。白洲次郎みたいっすね。」

「彼は、ポルシェとかフィアットじゃなかったっけ?……残念ながら、僕は彼ほど車に詳しくないけどね。うちの倉庫にほったらかしになってた中から整備してもらって乗ってるだけ。……色も褪せてるしね。」