小夜啼鳥が愛を詠う

京都に入る頃、菊乃天人が小声で謝ってきた。

「……ごめんなさい。」

さすがにこのままの空気で別れたくなかったようだ。

「何が?」

別にイケズというわけではなく、菊乃天人がどう感じてるか知りたかった。

「……池上宗真さんのことを悪く言って、ごめんなさい。」

菊乃天人は泣いてはいなかった。

納得してないけど、我慢する……ってところかな。

いじらしいというか……かわいいというか……ダメだ。

やっぱりかわいいよ。

どうしようもなく、かわいい。

よくわからないけど、僕のツボをくすぐりまくるらしい。

……そういう、巡り合わせなのかな。

あらがいようのない愛しさに、いつかは、全てを許せてしまいそうだ。

「僕も。……お兄さんのことはよくわからないから見当違いなこと言ってたら、ごめん。」

オトナな対応のつもりだった。

これでこの話は終わり。

そのつもりだったのに……菊乃天人の悲痛な表情を見てると、このままじゃダメな気がしてきた。

この子を笑顔にしてあげたい。

そのために僕ができることは……。

僕は、天を仰ぎ、息をついた。

将来の約束?

現在の僕の独占?

……どっちも無意味だと思うけど……言葉とか、指輪とか、女の子には必要なんだろうなあ。

嘘にならない自信が、まだ、ないんだけど。

さて、どうしたものか……。



17時45分に芳澤流家元に到着した。

「お家のかたにご挨拶したいけど……お父さんに内緒なんだよね?日を改めて、挨拶させてもらうね。」

そう言って、助手席のドアを外から開けるために、先に車から降りようとした。

ら、シャツの裾を引っ張られた。

……またか。

「引っ張るなら手にしてってば。」

そう言って、菊乃天人の両手をとった。

「……あの……まだ、言ってないこと、あるねん……。」

もじもじしてる菊乃天人。

宗真さんの話じゃなさそうだな。

「なに?告白?」

冗談めかしてそう尋ねると、菊乃天人は微妙な顔をした。