小夜啼鳥が愛を詠う

菊乃天人は、ふーっと息を吐いた。

「……うん。観たことないくせに、偉そうに……当たってるから、超ムカつくけど、言い返せへん。」

やっぱりかわいい……。

参ったな。

そっと手を伸ばして、菊乃天人の頭を撫でる。

……今日の菊乃天人は、着物なので黒い髪をまとめ上げている。

でも、さっきベッドで寝ちゃったせいで、ビシッとひっつめていた朝よりも、イイ感じにゆるい。

乱れ髪というほどでもないけれど、やっぱり少し崩れてるほうが色っぽいかな。

「あやちゃん、怖い?今も。」

そう聞くと、菊乃天人は淋しそうに言った。

「……怖い……より……悲しい……。」

どういう意味だろう。

続きを促すと、菊乃天人はぽつりぽつりと話し始めた。

「私じゃなくって、おばあちゃんに逢いたかったんやと思う……。今までわからへんかったけど、たぶん……ずっと……。」

「……菊乃さん、はなちゃんに似てるの?」

この場合のおばあちゃんは、芳澤の前家元のひいおばあさんの「おばあちゃま」じゃなくて、あやちゃんの双子のはなちゃんのことだよな?

「似てへん。全然似てへん。……おばあちゃん、浮き世離れした綺麗なヒトやってん。……とーさまの若い頃は、おばあちゃんに似てる。」

「ふぅん……。あ。そうだ。あやちゃんの肖像画の画像あるよ。」

そう言って、僕は自分のスマホを菊乃天人に託した。

「え……これ……。」

「操作わかる?カメラのマークから画像一覧に行けるから。」

菊乃天人は不思議そうに僕を見た。

「……携帯電話、勝手に見ていいの?」

「勝手って……僕が見てって言ってるのに。……別に、誰に見られても困るようなデータはないよ。どうぞ。」

生真面目な菊乃天人は、イチイチ僕に確認をとりながら、画像フォルダを開けた。

「……何?これ。……絵ぇと……書類?帳簿?の写真しかないやん。え~?……風景とか、自撮りとか、お友達や家族とか……全然撮らへんの?」

「家族写真は普通のカメラで撮るし、ブログもSNSもしてないから風景写真や食べ物を撮影する趣味もないよ。……絵の画像。わかる?」

「……光の肖像画しかない……あ……。」

菊乃天人の動きが止まった。