小夜啼鳥が愛を詠う

遊女の手練手管って、すごそうだな……。


いやいや。

たぶらかされてどうするんだ。


僕は敢えてキッパリと否定した。

「そんな格好したってダメだよ。菊乃さんならうれしいけどね。あーちゃんは、ダメ。……僕は、あーちゃんの孫の光だよ。」

そう言ったら、菊乃天人の……いや、あやちゃんのお顔から、すーっと表情が消えた。

「孫……?」

言葉の意味がわからないのだろうか。

「うん。孫。あーちゃん、男の子を産んだでしょ?その子が、僕の父親。」

「男の子……。赤さん……。うちの……赤さん……。」

無表情のまま、あやちゃんがそうつぶやくと、菊乃天人の瞳から涙がぽろりとこぼれた。

理解できたのだろうか。

ぽろりぽろりと落ちる玉の涙をティッシュで拭いてあげようとした……ら、菊乃天人からあやちゃんの気配が消えた。

着物の裾を慌てて直して、しゃんとベッドに座り直したのは、遊女ではなく、菊乃天人そのものだった。


「……菊乃さん?」

そう問いかけると、菊乃天人はティッシュに顔を近づけてきた。

「うん。……あーちゃんじゃない。……はーちゃんでもない。……菊乃。」

鼻をすすりながら菊乃天人はそう言った。


……意識、ちゃんとあったのか……。


「気分は、どう?しんどくない?」

涙を拭いながらそう尋ねると、菊乃天人はそのまま頭を僕の胸に押し付けた。

「……夢かと思った。このベッドがすごく気持ちよさそうで……夕べ、なかなか寝られへんかったから、つい、横になっちゃって……ごめんなさい。」

「いや。……僕も、睡眠不足だよ。」

正直にそう言ったら、菊乃天人はうれしそうに僕の胸に額をすりつけた。

「……私なら、うれしいって言った……。いつもの私が好きって、言った……。」

うっ……。

本当に全部聞かれてたのか……。

ま、いっか。


僕は開き直った。


「うん。そうだよ。好きだよ。冗談でもロリコンでもないから、菊乃さんがもう少しオトナになるまで、待つつもり。……迷惑じゃない?」

菊乃天人は僕にぎゅっとしがみついたまま、顔をガバッと上げた。

「阿呆ちゃうか!迷惑って!」