小夜啼鳥が愛を詠う

僕は自分の頬にあてがわれている菊乃天人のその手に、僕の手をそっと重ねた。

そして、菊乃天人の中の女性の瞳を見つめて言った。

「菊乃さんと仲良くなってほしいんだけど……。」

ニコリと彼女は笑った。


……通じてるのかな。


「あなたも、菊乃さんと仲良くなりたいんだよね?怖がらせるつもりはないよね?」

ニコニコと彼女はほほ笑んでいた。


何だろう……この……のれんに腕押し?

話が通じない……?


「あなたも、菊乃さんのこと、好きだよね?」

そう尋ねると、菊乃さんの中のヒトは、ほほ笑んでうなずいた。

そして、僕の首に両手を回して、起き上がり……僕にきゅっと抱きついた。

「……だぁいすき。」

彼女はそう言って、くすくす笑った。


無邪気なのに妖艶……。

魔性の女だな。

……遊女……か。


「僕は、いつもの菊乃さんが好きだな。」

そう言って、彼女の身体を引き剥がした。


すると菊乃さんの中のヒトは
「あぁん。」
と、残念そうな声を挙げた。

そして、不思議そうに僕の目を覗き込んだ。


……拒絶されて驚いてる?


「とりあえず、僕とお友達になろうか。……お名前は?」

ゆっくりと、そう聞いてみた。

まるで、子供のように、菊乃天人の中のヒトは答えた。

「あや。」

……あや……。

ドキッとした。

その名前は……ありふれたものだけど……それは……。



不意に宗真さんの言ってたことを思い出した。

菊乃天人と僕は親戚じゃないか、って言ってた……。


本当に?

そうなのか?


逸る心をおさえて、僕はなるべく優しく穏やかに尋ねた。

「あやちゃん。かわいい名前だね。……あやちゃんのお姉ちゃんは、はなちゃん?」

するとあやと名乗った女の子は、パッと顔を輝かした。

「はーちゃん、知ってはるの?」


……ごめん……知らない。

でも、君のことは、よくわかったよ。



あやちゃん。



君は、僕の……本当の、僕の……おばあちゃんじゃないかな……。

扇屋の彩瀬、という源氏名の遊女。

たぶんそのはずなんだけど、僕の中の彩瀬パパは、何も訴えて来ない。

まあ……会ったことないし……そもそも、存在自体、知らないし、興味なさそうだけど。

彩瀬パパの想いは、あーちゃんにだけ注がれて……。


……。


本当に、そうなのか?