小夜啼鳥が愛を詠う

「菊乃さん。……着物なのにパワフルだねえ。」

菊乃天人は建物のすぐ横に復元展示されている日本最古の下水道管を、柵から身を乗り出して見ていた。

「あれ?これ、上水道じゃなくて下水道なんだ。」

へえ……。


菊乃天人とは逆に、僕は一歩下がった。



ランチは……まあ……普通……。

素材は悪くないんだろうけど。

僕は料理よりサービスの質が気になったけれど、菊乃天人は終始ご機嫌だった。


店を出てから、
「光のお店のほうが、ちゃんとしてはるわ。」
と、呟いてたけど。

「……僕の店じゃなくて、僕がお手伝いさせてもらってるお店、だからね。」

一応、ゆくゆくは僕が預かって運営していくつもりだけど、所有権はけっこう微妙な問題なので、僕はそう念押しした。

菊乃天人は首を傾げたけれど、僕を見て、うなずいた。

「わかった。今は。……マスター、ダンディーね。カッコイイ。光もあの格好するの?」

今は、という言葉に引っかかったけど、敢えてスルーした。

「僕は、ギャルソン?マスターの奥さんの趣味でね、けっこう本格的な制服を着させてもらってるよ。」

「見たい~~~~!」

菊乃天人は両手を握りしめてぶんぶん振りながらそうおねだりした。


……やっぱり、子供だ。

いちいち、小さい頃の薫を思い出すやんちゃぶりだなあ。

やばい。

僕の心をくすぐるかわいさじゃないか。


「じゃあ、今度は僕がお手伝いしてる時においで。……とりあえず、今日は制服はないけど、コーヒー豆とお水はもらってきたよ。」

僕は後部座席に置いた紙袋を顎で差した。

「……水も?」

「うん。あの店の井戸水で入れないと、あの味にならないから。……まあ、僕が入れても、マスターの味にはなかなかならないんだけどね。」

「同じ豆と同じ水を使っても?」

菊乃天人の目が丸くなった。

「……うん。残念ながらね。とりあえず、お口直しにはなるだろうけど……あんまり期待しないでね。」

マスターの留守の時に、代わりにお客さまにコーヒーをお出しすることもあるし、自信がないわけじゃない。

でも、菊乃天人をガッカリさせたくなくて、僕はそんな予防線を張っていた。