小夜啼鳥が愛を詠う

……別に一滴二滴、コーヒー豆の層を通らないお湯が混じっただけのことなんだけど……マスターのこだわりとプライドがそんなことさせないよなあ。

菊乃天人はそれ以上何も言わず、ただ見つめていた。


「すみません。お待たせしてしまいました。どうぞ。」

マスターは笑顔でコーヒーを出してくれた。

「美味しそう。……いただきます。」

コーヒーを飲むのにもお作法があるのだろう。

菊乃天人は、まるで茶室でお抹茶をいただく時のように、仰々しいほど丁寧にカップを扱い、音もなくコーヒー飲んだ。

珍しくマスターが見とれてたような気がする……。

僕は、白い喉が煽情的に動くのを眺めながら、涼しい顔をキープするよう心がけた。


さっちゃんのような優等生タイプのイイ子じゃない。

かと言って、あーちゃんほどあけすけでもなく、さばさばもしていない。

ヒトによっては裏表があると言われそうな、二面性を併せ持つ癖の強い女の子。

……僕はどうも彼女が次はどんな顔を見せるのか、興味津々らしい。


「美味しいです。すごく。……濃いのに苦くないんですね。むしろ甘み?酸味?……おいしい……。」

そう感嘆してから、菊乃天人はカップを少し上にかざした。

「それに、このコーヒーカップ。繊細な美しさですね。どちらの器ですか?」

あと少し上げるなり、首をひねって下からのぞくなりしたら、カップの裏にメーカーが記されている。

敢えて自分で確かめず、マスターに尋ねるのは、やはりお茶席で亭主に茶器を聞くのと同じ、コミュニケーションの1つの形式なのだろうか。

「コウルドンという古いイギリスの窯です。ご存じですか?」

マスターが逆にそう聞くと、菊乃天人はふるふると首を横に振った。

「……すみません。ウェッジウッドぐらいしかわからないです。」

「謝る必要ないない。日本ではマイナーだから。アンティーク好きなヒトしか知らないって。ね?マスター。」

思わず、余計なフォローをしてしまった。

マスターは、わざわざ僕にまで営業スマイルを振りまいた。

「お気に召していただければ、それで充分ですよ。ありがとうございます。」