小夜啼鳥が愛を詠う

「あそこもややこしいねん。幼稚園に入園した時は『芳澤』やったけど、小学校からは『梅宮』やったわ。結婚するときに『芳澤』に戻ったそうや。……ずっと髪のばして女の子みたいやったで。日舞の家元の跡取りやってゆーから友達になれるかと思って、同じクラスになった時に話し掛けてんけどな、『大工になりたい』とか言いよって……俺とは生き方が違うな、とそれっきり。」

「大工?……あ……それで、雨漏り……。」

なるほど。

趣味で日曜大工をされてて、お知り合いのお家の雨漏りの修理に行った……って感じかな?

日舞のお家元が大工仕事ねえ。

まあ……あの、菊乃天人の父親なだけに……変わってらっしゃるってことかな。


「なんや?急に。……もしかして、誘われたんけ?いや、梅宮はノーマルやったな。……じゃあ、息子か?芳澤咲弥に、懸想された?」

宗真さんは起き上がって、僕にそう聞いた。

……さきや?

菊乃天人のお兄さん、そんな名前なのか。

怪しい。

なんで、すらすらとフルネームが出てきたんだろ。

もしかして、宗真さんこそ、咲弥くんに懸想されたんじゃないの?


……てゆーか!

「ね?なんで、相手は男だと決めつけてるの?僕、普通に女の子も好きだけど?」

しかも、年下の男の子なんか、いらないってば。

「あ。そう。……ほんならよかった。咲弥は、線が細過ぎて……。」

宗真さんは途中でやめて、マジマジと僕を見た。

「下のお嬢さん?……あぁ、そうか。」

よくわからないけど、納得したらしい。

「うん。菊乃さん。あの子、僕と同じみたい。禿(かむろ)から遊女になった女のヒトが出てくるから、本気で舞えないんだって。」

「……なるほど。そーゆーことか。」

宗真さんは、お昼寝する気がなくなったらしく、ベッドから降りて冷蔵庫から水を取って飲んだ。

僕も僕も!と、アピールすると、当たり前のように口移しで飲ませてくれた。

ついでに、ぐにゃぐにゃにとろけそうなキスのオマケ付きで。


「下のお嬢さんは、何度か能楽堂に来てはるけど、確かに憑かれてはる気がする。絶望的に悲しくても笑顔を絶やさん美女。遊女か。うん、そうやな。そーゆー感じ。……日舞は、遊女モン多いから、大変やなあ。」

宗真さんはそう言って、再び僕を組み敷いた。

「光はどうなん?梅宮の、いや、芳澤のお姫さんが欲しいんけ?」

……欲しい?

好きかどうかじゃなくて?