小夜啼鳥が愛を詠う

菊乃天人のお母さんは、心配そうにひいおばあちゃんをうかがい見た。

「おばあさま、いいんですか?」

するとひいおばあさんは、うっすらほほ笑んだ。

「小門くんを信頼しましょ。……それに、菊乃が心開いて懐いたんやったら、大丈夫やろ。」

菊乃天人の顔がぱっと輝いた。

「さすがおばあちゃま!わかってる!ありがとう!大好き!」

一気にそう言って飛びつこうとした菊乃天人を、ひいおばあさまは手で制して鼻で笑った。

……このへんが、かっこいいな。

「阿呆やな。菊乃はまだ子供やゆうことやで。ねえ?小門くん。」

僕は敢えて苦笑してうなずいた。

菊乃天人は、またぷくっとふくれた。

……本当は、そこまで子供だとは思ってないよ。

お望みなら、手取り足取り教えてあげるけどね。

このおばあさまの信頼を裏切ると、怖いかな。

少なくとも、高校生になるまでは待つよ。

僕は無意識に、菊乃天人との未来を頭に描き始めていた……。



一緒に夕食を……と、実に京都らしく引き留められたが、もちろん空気を読んで早々に辞去した。

なんせ、お父さんに内緒らしいからね。


「じゃあ、僕はいつでもいいよ。菊乃さんの都合のいい日を教えてくれたら、朝イチで迎えに来るから。」

見送りに出ようとする菊乃天人を玄関で止めて、そう言い置いて出ようとした。

「明後日。」

菊乃天人は僕のシャツをぎゅっと握ってそう言った。

……シャツが伸びる……って言ったら、また「けちくさい」と言われちゃうのかな。

僕は天を仰いで、息をつき、それからおもむろに菊乃天人の両手を取った。

「え……。」

菊乃天人の頬が赤く染まる。

「引っ張るなら、シャツじゃなくて僕の手にして、って前にも言ったよね?」

「あ……。」

もじもじしてる菊乃天人がかわいくて、僕はちょっと悪戯心を出した。

「じゃあ、明後日。晴れるといいね。楽しみにしてるよ、我が天人。」

そう言って、菊乃天人の両手の甲に、順に軽く口付けた。

「ひっ!」

声にならない声を挙げて手を引っ込めた菊乃天人に、ひらひらと手を振って、母屋を離れた。


門の横の木戸をくぐり、少し塀伝いに歩き、車に戻る。

エンジンをかけて車を出す。

ちょうど邸宅の角のところで、品の良さそうな男の子とすれ違った。