小夜啼鳥が愛を詠う

「……まあ、主人は……動揺するわね。まだ早いって言いそう。でも、小門くんなら、文句言えないかも。」

母親はそう言ってから、菊乃天人をたしなめた。

「菊乃ん。目上の男性を呼び捨ては、あかんわ。失礼よ。……すみません、小門くん。しつけのなってない娘で。お恥ずかしいです。」

出た!

京都人の、心にもない謙遜攻撃だ。

確かに菊乃天人は、二面性があるけど、むしろしつけや礼儀作法はパーフェクトだろう。


「むしろ今時珍しい、できたお嬢さまだと思いましたが。……ありがとうございます、お点前(てまえ)頂戴いたします。」

とりあえず、そう言って、出されたお茶をいただいた。


……旨いな。

さすが、というところだろか。


菊乃天人も、母親も、僕の作法を黙ってじっと見ていた。


飲み干してから、お茶碗の内側の絵柄に気づいた。

へえ……菊の花だ。

「そういえば、重陽の節句がもう来週ですね。」

そう言ったら、菊乃天人の頬がぷくりと膨れた。

……暦より、自分の名前を出して欲しかったのかな。

かわいいな。

こみ上げてくる笑いは……愛しさの芽かもしれない。

僕は、菊乃天人が乙女心を持て余して一喜一憂していることが、楽しくてしかたなかった。




絹ずりの音が近づいてきた。

「失礼しますよ。」

そんな言葉とともに、音もなく茶室の戸が開けられた。

鮮やかな山吹色の紬をパリッと着こなした年配の女性が端然と座っていた。

「おばあちゃま、ただいま帰りました。」

菊乃天人がわざわざ手をついてそうご挨拶した。

「……そう?帰らはってから、だいぶ経ってはると思うけど。おかえりなさい。菊乃。……はじめまして。菊乃の曾祖母です。」

こわっ!

てか、祖母じゃなくて、曾祖母なのか!

菊乃天人は肩をすくめて、えへへと笑い、もう一度手をついて頭を下げた。

「ごめんなさい。ご挨拶が遅れました。」

ひいおばあさんの目がすっと細くなった。


……迫力あるなあ。

てか、このお家では、帰宅したらひいおばあさんに挨拶に行かなきゃいけないんだ……。

とりあえず、僕も挨拶しとこう。