小夜啼鳥が愛を詠う

僕は苦笑してスルーすると、菊乃天人のお母さんに向かって言った。

「……あっさり振られてしまいましたね、今。」

「はあ!?」

「……すみません。娘はまだ子供で。恋愛に免疫ないんですわ。耳年寄なばっかりで。……よろしければ、すこぉし待ってやってくださいね。」

「かーさまっ!」

赤くなってとんがってる菊乃天人を無視して、お母さんは僕を家の中に招き入れた。


通されたのは母屋(おもや)の小さな一室……綺麗なお庭に面した茶室のようだ。

これは……歓待されてるようで、僕の教養と文化水準を試されてるのだろうか……。


「主人は、さっきぃ仕事で呼ばれて出て行ってしまって。……当分帰れはらへんやろうから、本当にゆっくりして行ってくださいねえ。」

「雨漏り?」

「そうなんよ。台風通り過ぎるまで待て、ってわけにもいかへんみたいで。……西のほうが冠水してるんやて。舞ちゃんとこも川のそばやし、心配して電話しはったみたいやわ。」

……雨漏りの修繕に行ったのか?

この家のご主人なら、日本舞踊のお家元だよな?

なんで、家元が、雨漏り?

意味がわからない。



「それで……娘とは、どちらで?」

お茶をたてながら、菊乃天人のお母さんが尋ねた。

「ほら、徳丸先生にチケットとっていただいて、お能に行ったことあったでしょ?あの時。ね?」

菊乃天人の言葉に、母親が首を傾げた。

「それって、だいぶ前じゃなかった?……そんな頃から?お友達なの?」

……あ。

ロリコンとか思われてないだろうか。


てか、徳丸先生って、誰だ?

徳丸……ワキ方かお囃子のかたに、そんなお名前のかたいらしたかな?

ああ、そうか。

あの時、菊乃天人がロビーで話してたのは、その徳丸先生のご家族なんだろう。


「ううん。……まあ、私は一目惚れだったけど、光、めちゃ美人の彼女連れやったから。ね!」

一目惚れ!?

そんな顔してなかったぞ。


一瞬焦ったけれど、菊乃天人は、してやったりとニヤニヤしていた。

……からかったのか?

いや、さっきの報復かな。

「意趣返し?……でも、冗談でもそんなこと言っちゃうと、僕より、菊乃さんのほうがダメージ大きいんじゃない?……ねえ?お母さま?……お父さまが嘆かれますね。」

なるべく鷹揚に受け流した。