小夜啼鳥が愛を詠う

「……仲良しというわけでは……。」

これ以上ないぐらい濃密に仲良しだけど、そんなこと言えるわけない。

咄嗟にごまかすことには失敗したが、なるべく冷静に事実の一部のみを伝えてた。

「宗真さんの舞台を観て、僕も、この天使をコントロールできないかと思ってね、相談にのってもらったんだよ。おかげで前向きに受け入れるようになれたから、宗真さんは恩人かな。」



そうこう言ってる間に、寺之内界隈に入り込んだ。

お寺、家元、お寺お寺、……一般家庭?……お寺、家元……と、立派な塀と門を眺めながら進む。

「そこ。」

菊乃天人が指差した区画もまた、築地塀がぐるりと取り囲む、見るからに普通じゃないお屋敷だった。

塀越しでも立派な木々の日本庭園と母屋の大きな棟が見えてるし。

……こりゃ、築百年どころじゃないだろ。

雨で視界が悪いけど、立派な木の看板には「芳澤」と書いてあるようだ。

芳澤……あやめ?



菊乃天人の指示で、格子戸の駐車場のすぐ前に車を停めると、僕はドアを開ける前に言った。

「宗真さんが僕の話を聞いてくれたように、今度は僕が、菊乃さんの話を聞いてあげられたらいいなって思ってる。」

とりあえず、今、伝えておくべきことは、ソレだろう。

下心はさておき、イロイロ歪んでいびつな菊乃天人から恐れを取り除けたら、彼女はもっともっと自由になれるだろうか。


菊乃天人は、目元をゴシゴシこすってからスマホを取り出した。

「……連絡先、聞いていい?メールとか電話していい?」

「もちろん。いつでも、かけといで。……お店にいる間は出られないけど。」

……いつでも、じゃないな。

「夜中は?」

からかってるわけではなく、切実な確認だった。

「いいよ。出なかったら、しつこくかけて起こして。」

そこまで言ったら、菊乃天人はやっとうれしそうな顔を見せた。




車を降りると、傘をさしてもけっこう濡れてしまった。

やっぱり日を改めたい。

今日はやめておくよ。

……そう言いたいんだけど……菊乃天人は、ずんずん先へ進む。

立派な門の横の小さな木戸から中に入り、玉砂利を進む。

「飛び石、滑るし。気ぃつけて。」

なるほど、真ん中の敷石を避けてるのは、雨で濡れて滑るから、か。