小夜啼鳥が愛を詠う

漠然と、そうじゃないかとは思っていた。

調べればすぐわかっただろうし、調べなくても、宗真さんに聞けば一発だったと思う。

でも、僕は何も知ろうとしなかった。

ご縁があれば、いつかまた巡り会う……。

そこまでの確信があったわけではないけれど、あの時の彼女はまだ幼かった。


いや、今も中学1年生じゃあ、手出しできるものじゃない。

でももう再会しちゃったしなあ。

少なくとも、もう、放置しておくことはできないよな。

キープというとイメージが悪いけど……菊乃天人の成長待ち?


ちらりと助手席で困った顔をしている菊乃天人を盗み見た。

……返答に窮してるらしい。


そっか。

彼女にとっては、実家もまた、偏見の対象になってきた恐れがあるのかもしれない。

ましてや、親友がヤクザと風俗嬢の娘とくれば……お互いにコンプレックス満載だろうなあ。


「次の菊乃さんの舞台は、招待してくれない?」

話題を変えたつもりだったけど、菊乃天人にとってはとどめの一撃だったのかもしれない。

「……あーあ。バレちゃった。いつわかったん?」

菊乃天人は開き直ったようだ。

「いつって……初対面から?まあ、再会してから、ついさっきまではミスリードされて無意味な緊張を強いられたけどさ。冷静になってみれば、無理があったよね。舞ちゃんも、お兄さんも日舞を習ってるなら、一番似つかわしい菊乃さんが舞わないわけないし。」

そう言ったら、菊乃さんは軽く舌打ちした。

……また、お行儀の悪い中学生女子になってる。

ほんと、極端な子だよ。

自分自身と立場の不一致を持て余して、バランスが取れてないのかな。


「……お願いやから、そーゆー言い方、兄の前ではせんといて。うちは、兄が継ぐんやから。兄が何でも一番じゃないとあかんねん。」

菊乃天人は、僕を睨み付けるように懇願した……どっちだよ。

意志の強さが眼力ぎらぎらだなあ。


……何となくわかってきた。

お兄さんは、次期家元として大切に大切に英才教育を受ける御曹司なんだろうな。

そして、菊乃天人の行く先は、よくても副家元か、指導者の一人。

……なのに、菊乃天人のほうが……うまい?……いや、違うかな?


まさか、宗真さんと同じことができるのか?