小夜啼鳥が愛を詠う

僕は、誤解を恐れずに言った。

「たとえ、親が極道さんでも、風俗嬢でも、遊女でも、死別でも、離婚してても、関係ないよ。肉親の情は強いよ。……僕も、ずっと……家族とごく一部の知人以外は対人恐怖症だったから、偉そうなことは言えないけど、別にいいんじゃない?学校に行かなくても。大検もあるし。」

菊乃天人は首を傾げた。

「対人恐怖症?……むしろソツなく見えるけど。てか、カフェでバイトしてるんでしょ?」

「カフェじゃなくて純喫茶だよ。それにお給料もらってないからバイトじゃない。……リハビリのつもりでお手伝いさせてもらい始めたんだ。おかげさまで、挨拶と、当たり障りない会話ぐらいは誰とでもできるようになったかな。」

……舞ちゃんの話を最後まで聞ける程度にはね。


菊乃天人は、わずかにうなずいた。

「……舞ちゃんも、きっかけがあれば変わるのかな。……接するヒトの顔が歪んでくる気がするんだって。自分への悪意で。それが怖いみたい。」

「あー……。そっか。僕もずっと、周囲の子たちのマイナス感情が息苦しかったよ。」

そう言ったら、菊乃天人はちょっと笑った。

「光はそうかもね。良くも悪くもヒトの念を背負っちゃうんでしょうね。……この間も、遊女たちの念に捕まってたし。……舞ちゃんにはそういうの感じないから、心の病だと思う。」

……わかるのか。

「菊乃さんは……そういうの、見えるヒトなの?」

「……見えへん。でも、わかる。誰かに何かが憑いてるのは、何となくわかる。」

そう言ったあと、くすりと菊乃天人は笑った。

「光にはいつも天使がいるみたい。すごく清らかで綺麗で癒されるねん。でも、守護する気はないみたい。怖がりやねんね。すぐ逃げ出す。役に立たない天使。」

思わず、僕は吹き出した。

「それ、僕の実の父親だよ。僕が生まれる前に死んじゃったから逢ったことないけど。綺麗なだけで何もできないヒトだったらしいから。」

確かに、彩瀬パパは僕の中にいる。

何の役にも立たないどころか、あーちゃんへの執着が強すぎて、迷惑行為を繰り返すこともあったけど……悪意はないんだよな。

菊乃天人の言う通り、無邪気な天使なのだろう。


「……気持ち悪くないの?」

恐る恐る、菊乃天人はそう尋ねた。


気持ち悪いって……何が?

僕に彩瀬パパが憑いてること?

それとも、憑いてることを感じて指摘した菊乃天人のこと?


……どっちにしても、愚問だ。


「全然。むしろ理解者が増えてうれしいよ。……菊乃さんの周囲には?そーゆーの、共有できるヒト、いない?」


ぽろりと、菊乃天人の瞳から涙がこぼれ落ちた。