小夜啼鳥が愛を詠う

……仲のよい女の子のお友達同士なら、何でも情報共有していてもおかしくないけれど……菊乃天人が僕のことを話題にしてるのかと思うと、こそばゆい気がした。

菊乃天人は舞ちゃんにうなずきつつ、強面の組員さんから紙袋を受け取っていた。

「ありがとう。荒沢さん。……そや!資料の件、お願いします。」

菊乃天人はそう言って、綺麗なお辞儀をした。

……最近、巷に流布している、韓国や中国のような両手を胸下で不自然に重ねた変なお辞儀じゃなくて、日本古来の美しい立礼だった。

宗真さんからその違いをさんざん聞かされている僕は、改めて菊乃天人の立ち居振る舞いの美しさに感嘆した。

てか、資料って、僕の頼んでる資料だよな。

……そっか。

こちらの……荒沢さん……に、仲介を頼んだのか。

それは、やっぱり僕もご挨拶すべきじゃないだろうか。

僕も、前へ進み出て、荒沢さんに挨拶しようとした……ら……

「いや。学生さん。必要ないから。……あんたさんは、うちになるべく関わらんほうがいいやろ。これは、うちのお嬢さんとお友達の、このお嬢との間の話にしとき。」

挨拶すら拒否されてしまった。

……やっぱり親切だ……。

参ったな。


返答に窮してると、菊乃天人が満面の笑みで荒沢さんに言った。

「ありがとう。荒沢さん。……光。そういうことやし、気にせんでいいって。ほな、舞ちゃん、また明日。」

菊乃天人は、ひらひらと舞ちゃんに手を振って、片方の手で僕の腕を引っ張った。

……早々に退散したほうがいい、ってことか。

仕方ない。

僕を蚊帳の外に置いてくれようとする心遣いに乗らせてもらおう。


「持つよ。」

菊乃天人の紙袋を受け取って、愛車の助手席を開けた。

「エスコート!王子様のエスコート!仁さん!」

私も!……と、たぶん舞ちゃんは、荒沢さんにおねだりしたかったんだと思う。

でも、荒沢さんは苦虫を噛み潰したような表情で、舞ちゃんを封じ込めた。

……ご愁傷様。


荒沢仁、さん……か。

この組の幹部の中にその名前はなかったけど……それ相応の立場のヒトなんじゃないかな。

いかにも、できるヒトに感じた。


もう一度2人にお辞儀して、僕も車に乗り込むと、速やかに出庫した。

うーん。

一杯食わされたな、こりゃ。