小夜啼鳥が愛を詠う

「ちょっと待ってて。」

そう言って、菊乃天人は助手席から降りた。

建物の通用口の扉が開く。

そこから飛び出して来たのは、期待を裏切らない、絵に描いたような強面(こわもて)のお兄さん。

「お嬢。社長から連絡あったそうや。」

「げ。もしかして、学校休みって、バレた?早よ帰れって?……ごめんなさい。お騒がせして。舞ちゃん、帰るわー。制服ちょーだい。」

……まいちゃん?

帰る?

へ?


お兄さんの後ろからひょこりと顔を出したのは、菊乃天人と同じぐらいの年の女の子だ。

「菊乃ん。ご家族が心配してはる。道路が川みたいになりそうやねんて。帰れへんくなる前に帰っといでって。」

きくのん……って、お友達に呼ばれてるのか。

……あれ?

ご家族?

帰っといで?


「……すげぇな。これ。」

気がついたら、また別の若い組員くんが運転席のすぐ横に立っていた。

びっくりしたけど、たぶん車を誉めてもらったようなので、ドアを開けて会釈した。

すると、若い組員くんも慌てて頭を下げて、じりじりと後退した。

……意外と礼儀正しい?


「うわっ!かっこいいっ!……ほんまや。菊乃んパパに似てはる……。」

「……お嬢さん。」

僕を見てはしゃぐ舞ちゃんを、最初に出てきた組員さんが目と呼称だけでたしなめた。


……なんか……変だ。

違和感ありありだ。

けど、とりあえず、無視するわけにもいかないだろう。

僕は、車から降りると、一番偉そうなヒト……舞ちゃんと強面のいかにもな組員さんに向かって頭を下げた。

「突然、お邪魔して、すみません。小門(こかど)と申します。」

……正直、どう挨拶すべきかもよくわからない。

てっきり、菊乃天人の家だと思って来たけれど……これ、たぶん違うよな。

ここは、舞ちゃんの、つまり菊乃天人のお友達のお家なのだろう。


組員さんは黙って、ただ僕を見ていた。

……睨まれてる……と言う感じでもなく……雨宿りの通行人程度の認識なのかもしれない。

頑なな対応は、むしろ親切に感じる。

でも、このお嬢さんのほうは、そうはいかないようだ。

「小門……光さん?」
と、菊乃天人に確認した。