小夜啼鳥が愛を詠う

しばしの沈黙。


その後で、菊乃天人は、どこから出したのか、扇子を取り出して広げた。

「これ、どう思わはる?」

突然の行動と質問だった。


急に……なんだ?

「どうって……。」

戸惑う僕に、菊乃天人は扇子をつきだした。

一見して、古い扇子だった。

たぶん春慶塗の骨に、黄ばんでるような扇面。

いや、よく見ると、胡粉のような光沢に、ところどころ柔らかい金ラメ……じゃないな、金粉か?

絵柄は、真ん中にどーんと苔むした古木の幹。

左右に張り出した枝に紅梅と白梅が両方咲いている。

……季節感、おかしくないか?

「……年代物のお扇子だね。大切なものみたいだけど、菊乃さん、どなたかから譲り受けた?……でも、珍しいね。舞扇や茶扇子ならともかく、夏に使う扇子に梅って。何か意味があるの?家紋とか、名前に梅が入ってるとか。……菊乃さんなら菊の花じゃないの?菊五郎の舞扇は、牡丹と菊が裏表に描かれてたよね?」

思った通りに言ってみた。

菊乃天人は、こっくりとうなずいた。

「よぉわかってはるわ。……見当違いなこと、ひとっつも言うてはらへん。30年前のお扇子。貧乏臭い?ぼろっちい?」

自虐だろうか?

「いや。別に、まっさらだから高価というわけでもないよね。今、外国製の酷い骨のモノがいっぱい出回ってるじゃない。そんなのとは比較にならないぐらい立派なモノだと思うけど。ウレタン塗装じゃなくて本物の春慶塗だよね?これ。」

そう言ったら、菊乃天人は、ほうっと息をついて、それからうれしそうにほほえんで、僕を見た。

……また、だ。

視線がいつも、後からなんだよな。

癖なのかな。

おもしろいな。

「ありがとう。私にとって、すごく大切な扇子やねんけど、ボロいって、よく言われるから。……ちょっとホッとした。光と、価値観、合うような気がする。光のこと、もっと知りたい。……うち、来て。」

菊乃天人はそう言ったけど、僕はちょっとイケズを言ってみた。

「価値観、合うか?さっき、菊乃さん、この車のこと、ボロクソ言ってたよ?」

「……確かに。ごめん。ちょっと……ひねくれてた。」

菊乃天人は素直にそう謝った。

……なるほど。

さっきのあれは、わざと悪態をついていたのか?

何のために……。

よくわからないな。


……いや。

僕を試した……?

反応を見たかったのかな?