小夜啼鳥が愛を詠う

「……こんな格好だし、手土産もないけど……」

「ちゃんとしてるやん。後部座席に手土産2つ積んで。……ほんと、光、真面目。」

僕のためらいを、菊乃天人は笑い飛ばした。

確かに、訪ねる予定だった二軒にお菓子を準備してきたさ。

でも、組関係のかたにお渡しできるほどのシロモノじゃない。

それなら、菊池先輩のところのお酒とか……別のモノを準備したよ……。


「どうしはるん?やめとく?今日は、帰らはる?」

菊乃天人は、微笑みすら浮かべて僕を追い詰めた。


……綺麗だな。

活き活きしてる……。

ほんと、好戦的な子だな。

ちょっと、あーちゃんに似てるかも。

顔は、むしろ、彩瀬パパ寄りなんだけどね。


くすりと僕は笑った。

……何がどうあっても、僕は菊乃天人が気に入っているらしい。

似てるとか似てないとか、理由付けしてる自分がおかしかった……。


「……笑うんや。」

菊乃天人は、ムッとしたらしい。

「ああ、ごめん。そうじゃないよ。……迷惑じゃないなら伺うよ。でも、いいの?菊乃さん。」


後戻りできなくなるよ?


……僕は、その筋のヒトに一目で認めてもらえるような男らしい外見をしていない。

むしろ、舐められ、馬鹿にされてもおかしくない。

素手の喧嘩なら、普通のヒトには負けない自信がある程度には空手ができるけど、道具を使われたら敵わない。

ボコボコにされてぼろ雑巾のように捨てられたら、二度と菊乃天人には逢えなくなるだろう。

それでも、いいの?


そして、まあ、ないだろうだけど、逆のパターンもあるよ?

万が一、僕が気に入られちゃったら……お互いに、逃げることができなくなるんじゃないかな?

それでも、本当に、いいの?


そんな想いを込めて、僕はじっと菊乃天人を見つめた。

もちろん、言葉にしなきゃ伝わらないだろう。

……でも、まあ、言えないよな。

中学生女子に、そんなこと言ったって、重すぎるだろう。


そもそも、単に神戸までの脚になるだけとしか考えてないのかもしれないし。

今は、彼女によけいな覚悟を促すことも、僕の覚悟に気づかせることも、避けたほうがいいだろう。


僕は、何も言わずに、菊乃天人の反応を待った。