小夜啼鳥が愛を詠う

「じゃあ、日を改めようか。さすがにこれから行くわけにはいかないだろ。……台風は今夜通り過ぎる予定だから、明日か明後日。それか、来週でも再来週でも、菊乃さんの都合のイイ日に。……ただし、ちゃんと親御さんに許可をもらわないと、ダメだよ。」


普通の親なら、見知らぬ大学生の男が中学生女子をドライブで遠出させることを許すわけがない。

ましてや、そういった怖いお家なら……僕を呼びつけて脅すかな。

気が重いけど、それぐらいは覚悟しなきゃいけないだろう。


僕は、無意識によくわからない「覚悟」を決めていたようだ。

今さら、知らなかったでは済まない。

だからと言って、逃げるつもりもなかった。

毒を食らわば皿まで。

そんな気持ちになりつつあった。


菊乃天人は、僕の顔をじーっと見て、それから首を傾げた。

……真意を測りかねているらしい。

まあ、そうだよな。

体(てい)よく断ってるようにも思えるかもしれない。

でも、そうじゃない。

僕は、君に惹かれてる……。


「わかった。」

菊乃天人は、挑戦的な瞳で僕を見た。


強い子だな……。

外見はむしろたおやかなのに、たくましい。


「じゃあ、急やけど、これから来て。今日なら、とーさまも、かーさまも、おばあちゃまもいはるから。兄は学校だけど。」

……え……。

「今日?僕が?行くの?……え?」

何で、そうなる?

「だって、親の許可が必要なんやろ?……どこの馬の骨かわからん男に中学一年生の女の子を預ける親がいる?ちゃんと、光から挨拶して。」

……これは……どっちだ?

僕をしり込みさせたいのか?

それとも、僕を試してるのか?


僕の迷いを、菊乃天人は余裕綽々で見ていた……気がする。

てか、中学一年生、か。

薫より1つ年下だな。

僕より6つ下。

……なのに、対等に渡り合ってる……いや、むしろ、僕は負けてる。

空手で身につけた胆力と、純喫茶マチネで習得したハッタリで、なんとか平気を装ってるだけだ。

その証拠に、シャツの下が変な汗でじっとりしてる……。