小夜啼鳥が愛を詠う

僕の言葉にじっと耳を傾けていた菊乃天人が、息をついた。

「……真面目~。」


鼻白んだのかな。

ちょっと困ってると、菊乃天人はばつが悪そうに言った。

「単に車道楽してはるんちゃうねんね……。」

……いや、まあ、道楽は道楽だと思うけどね。

所詮、自分の稼ぎで買ったわけでも、維持してるわけでもないし、揶揄されても仕方ないというか……。


「……うっとこも、古いの。古すぎて、床とかサッシとか、どれだけワックスかけても、すぐにささくれるわ。足袋(たび)は大丈夫やけど、ストッキングはすぐ伝線してしまうねん。」

ボソッと、菊乃天人がこぼした。

「あー、わかる。うちも、あーちゃん……母が嫌がって、何年か前に、リフォームしたよ。昔ながらの土間の台所は床暖房入れて。」

同調したつもりだったけど、菊乃天人はアンニュイな表情でため息をついた。

「羨ましい。うっとこは、ヒトの出入りが激しくって……体面を保つ必要があるから、むやみにリフォームできひんねんて。利便性より格式。……住んでるモンはたまらんわ。」

……ヒトの出入り……体面……。

やっぱり、それ相応の組の本宅とかなのだろうか。

「体面、か。京都らしいね。」

当たり障りなく、そう言った。



風がまた強くなった。

バチバチと激しい音を立てて、強い雨がフロントグラスに突き刺さる。

「滝の裏側にいるみたい。……さすがに、これだけ降ってると、ドライブってわけにもいかへんね。」

だばだばと流れる雨に、菊乃天人は残念そうだ。


てか、ドライブ?

僕と?

ドキドキしてきた……。


「どこか、行きたいとこあるの?わざわざ雨の中出てきてくれたことだし、どこにでも、お連れしますよ?」

敢えて丁寧にそう言った。

……下心を微塵も感じさせないように。


「神戸。」

菊乃天人は、会釈のように首をかしげながら笑顔でそう言った。


……なんで、そんな……煽情的なんだ……。

普通にかわいいのに、仕草や瞳が、いちいち色っぽいんだけど。


「神戸……?観光?買い物?……南京町?」

平常心のふりをして、そう尋ねる。

でも、どんなに自分を律しようとしても、菊乃天人の笑顔と瞳に、僕の胸はにぎやかに鼓動する。