小夜啼鳥が愛を詠う

「……変なヒト……。」

そうつぶやいてから、菊乃天人はふっと笑った。


……うん。

この笑顔、やっぱり好きだな……。

かわいい、だけじゃない。

懐かしさにも似た愛しさを覚える……。

なんだろう。



「残念なお知らせがあります。」

菊乃天人が口を開く。

「うん?資料、見せてもらえないって?」

「ううん。それは、探してくれるって。……そうじゃなくて、今日行く予定だったお店ね、台風で臨時休暇にさせてほしいって。雨漏りしそうなんだって。」

あ~……。

そうだよな。

それは、もう、仕方ない。

「そっか。……てか、台風で、菊乃さんも学校お休みだったんじゃない?家でゆっくりできただろうに、ごめんね。」

謝った僕に、菊乃天人はぷるぷると首を横に振って見せた。

「光のほうが大変やったでしょ。電車のダイヤも混乱してるし、心配しててんけど……まさかこんな車で来はるとは思わへんかったわ。」

こんな車?

……なんか、さっきからさんざんな評価だな。

確かにめちゃくちゃ古いけど、別にポンコツじゃないし、むしろ購入すると高いんだよ……なんて、お金のことを言うのは、品がないよな。


「古い車は車検も税金も燃費も高(たこ)つく、って、かーさまが言ってはった。……光、いかにも、おぼっちゃんやから、関係ないんやろね。下宿せんと神戸からわざわざ京都に通うって、相当、お家が居心地いいん?別荘とかあったりする?バイトとか、働いたこともあらはらへんねんろうねえ。」

何のスイッチが入ったのか、菊乃天人がまた、普通の……いや、ちょっと困った中学生女子になってしまった。

びっくりしたけど……何だか、おかしかった。

会わなかったこの数日間、僕のことをあれこれ考えてくれてたんだな、って。


僕は、ニコニコして一つ一つに返事するつもりで話した。

「確かに、維持費はかかるけど、まだ走るのに廃車にするのも、眠らせておくのも忍びないしね。ヒトも、車も、建物も……古いものを大事にすることで、かけがえのない存在になるから。京都に来る日以外は、知り合いの経営するレトロな純喫茶を手伝ってるんだけどね、そこも戦前からの建物でずっと営業してるよ。神戸にも空襲はあったし、震災もあったけど、ありがたいことに、お店も、我が家も、須磨の別荘も、食器が割れたぐらいで現存してるから……ちゃんと維持してくことが、僕の仕事って思ってる。どれも築百年をとっくに超えてるし、不便のほうが多いけどね。」