小夜啼鳥が愛を詠う

「目つきが悪くて迫力あるから、警察だとは思わなかったよ。」

僕がそう言うと、彼女は不思議そうに言った。

「……この辺うろついてる刑事さんは、本職と変わらへんぐらい柄悪いわ。」

本職って……。

「とりあえず、車、出してもらえる?二課のおっちゃん、一応、光のこと、心配してくれてはるし。」

「にか?」

意味がわからず、僕は繰り返した。

「組織犯罪対策第二課、暴力団対策室。……あんまり優秀ちゃうけど。むしろ、三課のほうが張り切ってはるわ。麻薬対策ね。」

「え……暴力団関係の部署の刑事さんってこと?」

天人の彼女は、僕の顔を見て、苦笑を浮かべてうなずいた。


そっか……。

僕、警察に心配されてるのか……。


……何だか、状況証拠が整いすぎて……おかしくなってきた。

こみ上げてくる笑いに身を任せて、笑顔で聞いた。

「お嬢って呼ばれてたけど……。」

「……やめてほしいんやけど……なんか、定着してて。」

ちょっと頬を膨らませてそう言ってから、彼女は背筋を伸ばし、両手を両膝の上にきちんと置いて、僕に向かって深々と頭を下げた。

「菊乃(きくの)と申します。」

さっきまでのやや言葉遣いの悪い今時の女子中学生が、突如、初めて会った時のあの年齢不相応な落ち着きと所作のお嬢さまに変貌した。

発声まで変わったぞ……。


きくの……か。

古風な響きが似つかわしい気がした。


……また、花の名前の女の子だ……。


「綺麗な名前だね。君にぴったりだ。……菊乃天人?」

菊乃ちゃん……って呼ぶべきなんだろうけど……なんてゆーか、彼女は「菊乃」か「菊乃さん」って雰囲気なんだよな。

両極端だけど、どっちも彼女なのだろう。

歳下の子でも、他人さんを呼び捨てにする習慣がない僕に「菊乃」と呼ぶことはハードルが高すぎる。

かといって、「菊乃さん」もどうかと思うけど……いや、それは別にいいか。

「……びっくりした。『吉野天人』とかけはったんや。」

「うん。あの時、菊乃さんが『吉野天人』を舞うなら観たいな~、って思ったから。」

菊乃天人は目を見開いて、僕の顔をマジマジと見た。

まるで珍しいモノを見るように、興味津々に観察されている。

僕は敢えて、ニッコリとほほえんだ。