小夜啼鳥が愛を詠う

小声でそうつぶやいたら、マスターは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「これ、内緒な。俺の家族も、小門も知らんから。」

マスターはそう断ってから、小さな声で言った。

「……訴えられたことは、ない。てか、訴えられるより、お義母さんに結婚を迫られそうで、うちの奥さんにずっと手を出す気になれなかった。」

「あー……。」


なるほど。

さっちゃんママの夏子さんは、中学生の時から10歳も年上のマスターが好きだったんだもんな。

遊びたい盛りのマスターにとっては、蛇の生殺し?


「それから、親に淫行を訴えられたことはない。けど美人局(つつもたせ)には引っかかった……2回……。」

「……。」


さすがに、相づちも打てない。

それは……きっついな。


「今は、ハニートラップって言うのか?……最初からカモにされてたんだな。モテるからって、いい気になって、油断してた。言いよる女はみんな自分に気がある、って。」

マスターは自嘲的にそう言った。


僕は恐る恐る聞いてみた。

「もしかして、女の子のバックに極道の怖いお兄さんがいらしたんですか?」

いったいどれだけ搾り取られたんだろう。


すると、マスターは愁眉を解いた。

「いや。ただの不良とチンピラ。……だから、いつもお世話になっている組のヒトに相談して、おさめてもらったよ。」

「……そうですか……。」

そういうことか。

マスターは、婉曲的に、僕の最初の質問に答えてくれたのだろう。

やっぱり、その筋のヒトとお付き合いしてるんだ……。

そりゃそうだよな。

それ相応のみかじめ料とか、相談料とか、お礼とか……税金みたいだな。


「まあ、俺のことはいいとして。問題は、光くんだよ。……君、基本的に他人に興味ないけど、一旦、好きになったら長いだろ?」

う……と、僕は言葉に詰まった。


長い……と、さっちゃんの……つまり、好きな子のパパに言われたよ……。

確かに、既に薫のモノ、弟の嫁……と認識しながらも……さっちゃんを愛しく想う気持ちは変わらないけどさ。