うーん。

何となくわかってきた。

藤巻くん、玲子さんが好きなんだ。
だから、玲子さんのお料理が食べたかったし、玲子さんと一緒に暮らしてる成之さんに敵意を抱いてるんだ。

そっかあ……。
しっかりしてるようでもかわいいなあ。

私は、そんな風に暢気に構えていた。


でも、ちょっと違ったみたい。



20時頃、予定通り玲子さんが、薫くんと藤巻くんを送って帰るために席を立った。

「あ。じゃ、玲子さん。これ。」
ママが玲子さんに持たせたのは、灰汁抜きしたわらび。

「今日炊いたわらびご飯、全部、平らげちゃったから……明日の朝にでも炊いて、藤巻くんのお父さまにもおすそ分けしてさしあげて。藤巻くんが好きなら、たぶんご家族もお好きでしょ?」

藤巻くんの表情がパッと明るくなった。
「ありがとうございます!父も喜びます。」

ママにそう言ってから、藤巻くんは玲子さんに改めてお願いした。
「玲子さん。父も楽しみにしてたっぽいねん。わらびご飯、炊いて持ってってあげてほしい。お願い!」

玲子さんは渋々うなずいた。



玲子さんと薫くんと藤巻くんを見送ったあと、ママが私に聞いた。
「藤巻くんのお父さんって……どんな人?」

「御院(ごいん)さん、ってゆーんだって。京都に本山のあるお寺の、神戸支部を任されてる偉いお坊さんなんだけど、ロマンスグレーに口ひげの、すごく上品な色気のあるおじさんだったよ。」

そう答えて……ハッとした。

「もしかして、藤巻くん……彼自身が玲子さんに憧れてるんじゃなくて、お父さんの再婚相手になってほしいのかな。」

ママは首を傾げた。
そして、ドアの隙間からそっとリビングを覗いて、私の耳元でささやいた。
「……成之さんも、上品な男っぽい色気タイプじゃない?」

ほんとだ!
確かに、造作は全く似てないけど、受けるイメージは似てるかも。

どう見ても穏やかな紳士だけど、有能なやり手さんらしいところも。

「じゃあ、御院さんって、玲子さんの好みのタイプ?」
そう尋ねたら、ママはちょっと笑った。

「さあ、どうかしらね。少なくとも、苦手じゃないわね。玲子さん、お金に困ってないのに、誘われたからって、わざわざ働くんだから……悪い気はしてないんでしょ。」
「誘われたの?玲子さんが?御院さんに?」

知らなかった!

「え?……じゃあ、御院さんも玲子さんが好きなの!?」
「しっ!声が大きいわ。さっちゃん。成之さんに聞こえちゃう。」

つい大きな声を挙げてしまった私を、ママがたしなめた。

私は慌てて口元を押さえた。