小夜啼鳥が愛を詠う

かすむ目を無理やり開けて見上げた。

夏のセーラー服の女の子が、ゴソゴソと自分のカバンを漁っていた。

……白地に、紺のスカーフ……なんだけど、襟と袖口のラインは……何色だ?これ。

グレーのような、薄い緑のような……利休鼠?……いや、裏葉柳?

スカートは紺、靴も白い革靴。

ラインだけ、どうしてこの不思議な色なんだろう。

確か、京都では有名な偏差値の高いお嬢さん学校の、小学生と中学生の制服だったような気がする。


「大丈夫ですか?熱中症?……ぬるいお茶やけど、飲まはる?」

彼女はそう言って、水筒を振ってから突き出した。

美しいドヤ顔だった……。


僕、この子、知ってる……。

そうだ!

あの時の子だ!

はじめて、宗真さんの舞台を観に来た時にいた着物の美少女だ。

あの、天人の少女だ!!

……ドキン!と、再び心臓が跳ねた。

今度は、痛みではなく……急に鼓動が激しくなった。


「あれ……。」

同じように、彼女もなぜか、片手で左胸を押さえた。

「……君も、熱中症?」

とりあえず痛くはなくなった僕は、姿勢を正して彼女から水筒を受け取った。

そして蓋を開けてから、彼女に返した。

「お先にどうぞ。」

「……ありがとう。」

彼女はそう言って、水筒に口を付けた。

「いや、それ、君のだし。」

苦笑してそう言ったら、彼女は飲みながら少し笑った。

唇の端から、お茶がこぼれて流れ落ちた。

天人の彼女の白い喉を伝うと、やけに色の付いた薄緑のお茶でも煽情的だった。


僕は、目をそらして、ハンカチを取り出し、彼女に差し出した。

「制服、シミになるよ。」

すると彼女は、僕のハンカチを受け取り、水筒を代わりに差し出した。

「ありがとう。残り、全部飲んでくれはっても、いいですよ。」


まず手、それから言葉、そして顔、最後に彼女はやっと視線を僕に移した。

……無意識なんだろうけど、やたら意味深で……色っぽく感じた。



この子に前に逢ったのは、何年前だったろう。

あの頃はまだ肩揚げをした子供用の着物を着てたのに、色気を感じた。

えーと……3年半てところか。

女の子の成長は早い。

もうすっかり、少女じゃないな。

まさに、天人だな……。