小夜啼鳥が愛を詠う

京都のうだるような暑さを理由に、僕はすぐには行かなかった。

やっと足を向けたのは、9月に入ってから。

きっかけは、さっちゃんが持っていた京都を特集する雑誌に、件(くだん)の地付近のカフェが掲載されていたのを見つけたことだ。


「後期が始まったら、どこか行ってみよう。ココとか、素敵じゃない?」

無邪気にさっちゃんはそう言ったけれど、僕は敢えて別の店を希望した。

……別に忌み地というわけではないし、問題ないとは思うけれど……他にも良さそうなお店はいっぱいある。

なるべくなら、さっちゃんを危険な目に遭わせたくなかった。



結局1人で行ってみた。

人畜無害な学生に見えるようにカメラは持たなかった。

手ぶらで駅に降り立ち、橋を渡る。

かつての遊郭の入口には雰囲気のあるデザイナーズカフェ。

さっちゃんが来たがってた店はココか。

横目で通り過ぎた。


……さて。

行きますか。

何も知らずに迷い込んだ風に、キョロキョロと周囲を見ながら歩いてく。

へえ……。

お茶屋さんの立派な建物や、旧歌舞練場は中も見学したいかも。

すごいな。

レトロなタイル張りの古いお茶屋や、やたら凝った窓枠や建具の装飾に見とれた。


けど……。

廃墟と形容しても過言ではない小さな建物も、やはり目に付く。

……なんだろうな……。

廃業してるからなのか……華やぎも、艶っぽさも感じない。

むしろ……なんてゆーか……暗い……いや、怖い……?

あ、そうか。

客にとっては楽園でも、遊女にとっては煉獄だよな。

悦楽は一瞬でも、怨恨は死してなお、この地に留まっているのかもしれない。


てか!

僕でもこんなに苦しいのに、宗真さんって、やばいんじゃないの?

いろんなモノが見えるだけじゃなくて、憑依されちゃったりしないんだろうか……。


ドクンと心臓が跳ね上がった。

驚いて胸を押さえて、うつむいた。

痛い……。

胸が苦しい?

いったい……これは……。


……震えが走る。

このくそ暑いのに……ってことは、熱中症か?

えーと、水分とったら楽になるかな。

自販機……自販機……。


胸を押さえたまま顔を上げた。


いつの間にか、目の前にヒトが立っていた。