小夜啼鳥が愛を詠う

「赤線って。光が言うと、淫靡さ倍増やな。……確かに、今の花街は、お茶屋と芸舞妓やなあ、基本は。ほな、今はない遊郭か?……んー?島原は今も太夫がいるし、違うんや?あとは、五番町夕霧楼?三本木?五条楽園?中書島や橋本は、京都に入れるなよ。」

すらすらと地名が出てくることに驚いた。

「……よく知ってるね。行ったことあるの?……五条楽園は、つい何年か前まで、営業してたんだよね?」

冗談のつもりで聞いてみたら、
「行ったで。結婚前にな。手軽やろ。雄琴は情緒ないし、飛田は遠いし。」
と、宗真さんは当たり前のように肯定した。

……手軽な遊郭だったんだ……。

「ふぅん……どんなところだった?」

そう聞いてみたら、宗真さんはニヤリと笑った。

「見て来たらええやん。今のうちに見とかんと、どんどん建物、壊されて、雰囲気わからんくなってくで。」

「え……。」

まさか、行けと言われるとは思わなかった。

でも確かに……もはや営業再開しないなら、あとは廃れていくばかりかもしれない。

「……なんや、怖いんか?……一緒に行ったろか?」

親切そうな言葉だけど、宗真さんはニヤニヤと笑っていた。

何となく、気に入らなくて、僕は強がった。

「子供じゃないんだから。独りで行ってみる。……撮影しても大丈夫かな。」

「あー。今は営業してへんし大丈夫やろ。でも極道の事務所はやめときや。」

思わず息を飲んだ。

……まあ……そうだよな……。

つい最近まで営業してたってことは……ちゃんと任侠のおじさま達が管理してたってことだよな……。

「気をつけるよ。」

少し声が震えた。

「そこまで怖がらんでも。普通にしてたら問題ないって。……親父のお弟子さまに元極道のじーさんいるけど、礼儀作法だけキッチリ対応したら、むしろ親切なイイヒトやで。」

宗真さんは飄々とそう言った。



神戸には、日本最大勢力の指定暴力団の総本部がある。

僕自身は直接の関与はなかったけれど、徒歩圏内での死傷事件は枚挙に暇がない。

……前に関係した年上の女性の身内が組関係者だった……ってことがあったけど……彼女は、いつの間にか、影も形もなくなってしまった……。

誇張でも何でもなく、ある日突然、本当に消えてしまったのだ。


その後すぐのニュースで、仲間割れのような分裂と抗争を知った。

考えたくないけど……彼女の失踪と関係ないとは思えない……。

僕にとっては、遠いようで近い闇の世界。

どれだけ身体を鍛えたところで、間近で銃を発砲されたら防ぎようもない。



個人的に、イイヒトとかって問題じゃないんだけどね……。