小夜啼鳥が愛を詠う

大学生活と長い通学時間に身体が馴れるのを待って、僕は彩瀬パパの親探しを始めた。

既に、わかっていることの整理と、少し調べればすぐに辿り着ける母方の因縁。

そして、全く手がかりのない父親の捜索。



……とりあえずは、あーちゃんが調べた軌跡を辿り、関連資料を蒐集することから始めた。

大学の図書館では足りない。

市と府の図書館、市の歴史資料館、府の総合資料館。

さすがに、このあたりになると、逆に資料が多すぎて……そう簡単には終わらないようだ。


僕は、歴史学の学生でもないくせに、くずし字を覚え、近代文書を読み漁った。

そう古い資料ではなくても、やはり基礎を知らないと戦前の資料は読みきれなかった……。




長い夏休み、半分は純喫茶マチネで、もう半分は京都で資料を探した。

プリントした資料は、宗真さんのお稽古場で読むことが多かった。


「遊女の名簿とかあるんや?へ~。……客の名簿は、ないの?」

宗真さんにそう聞かれて、僕は苦笑した。

「そんな記録、残ってるわけないよ。そもそも記録したかも怪しいよ?……あ……でも……身請けとなると大金が動くだろうし、身請け人の記録もあるかもしれないね。……置屋さんが個人的に所有してたらの話だけど。」

置屋さんや、お茶屋さんといった、貸座敷業の公的な記録自体はそこそこ残っている。

だが、あくまで上っ面のみの記録でしかない。

……まあ、それでも、彩瀬パパのお母さんが、扇屋という置屋さんに所属した彩瀬という遊女だったことぐらいは、そんな公的な資料で探し当てることができた。

問題は、その扇屋はとっくの昔に廃業してて、かつての主人や女将も鬼籍の人……扇屋内部の資料はたぶん存在しないだろう。

例え、現存していても、内容が各方面に憚りありすぎて、出してもらえないことも多いらしい。

やはり、性風俗産業は特別後ろ暗いことありそうだしなあ。

「やくざも絡んでるやろしなあ。……でも、花街なら、けっこう伝手(つて)あるで?どこ?祇園、宮川町、先斗町(ぽんとちょう)、上七軒。」

「その辺は、戦後は表向き、赤線じゃないんでしょ?」

そう聞き返すと、宗真さんは笑った。