小夜啼鳥が愛を詠う

高校2年の冬、薫とさっちゃんは、めでたく彼氏彼女となった。

小学生男子と真面目で晩熟(おくて)な女子高生の恋は、初々しくてほほえましかった……。


僕は2人の恋を応援するスタンスを守った。

的確なアドバイスと励ましを送りながら、心の裏側がどうしようもなく冷たく苦々しいこともあった。


そんな僕を支えてくれたのは、純喫茶マチネで過ごす穏やかで優しい時間。

……あ。

もちろん宗真さんにもいっぱい助けられたけど、まあ、なかなか会えないしね。


宗真さんは、何度か、お客さまとして純喫茶マチネにやってきた。

マスターには、かつて、僕とさっちゃんに、お能のチケットをくださった能楽師さん、と紹介した。

でも、久しぶりにお会いしたふりを貫いた。

バレバレかもしれないけれど、マスターは何も言わなかった。



「びっくりしたわ。あの店、前から行ってみたかったとこやってん。トラさんと世舞子(せんこ)ちゃんに聞いてたから。……マスター、確かにイケメンやなあ。」

宗真さんは、店というより、マスターが気に入ったようだ。

「……マスターも同じこと言ってたよ。宗真さんのこと、能面で隠すのがもったいないって。」

そう伝えると、宗真さんは苦笑していた。

「や。まあ、素踊りのときは直面(ひためん)やけど……それじゃ男にしか見えんやろからなあ。」

そうかな?

他の人はともかく、宗真さんは顔付きも変わるけどね。


僕は、誰もいないお稽古場で、宗真さんが自分のお稽古をするのを観てるのがけっこう好きだった……。




大学生になった。

さっちゃんも一緒だ。

僕らは、これまで通り、虫除けのために、まるで恋人のようにくっついていた。

神戸から京都までの往復と、同じ講義、ランチは、ずっと一緒。

……さっちゃんが教職課程の講義を受けている時間だけ、僕は独りでふらふらした。


宗真さんのお稽古場で過ごすこともあったし、一緒に山に登らされたりもした。

空手をやめた僕に、運動させたかったのかもしれない。

「僕、昔から山より海が好きなんだけど……。」

「京都には海、ないからな。山もいいもんやで。特にこの辺の山は、いろんなモンがいて、楽しいで。」

宗真さんが言うには、古代から近代まで、さまざまな時代の武士や落ち武者の霊がうようよいるらしい。

「僕、見えないもん。」

彩瀬パパにしか、霊にご縁がない僕にとって、宗真さんはいつまでも不思議な存在だった。