小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。ありがとう。その気持ちだけで、助けてもらえたみたい。とりあえず自覚した。元気出てきた。……でも、今日は本当にイイから。宗真さんのお弟子さんだけじゃなくて、お父さんのお弟子さん達も勢揃いなんでしょ?ちゃんと、仕事して?」

そう言ったら、宗真さんはぼやいた。

『……頑固なヤツめ。わかった。ほな、今日は帰る。……ゆーても、これからお舞台と、東京の師匠に挨拶と、支援者の挨拶回りと、各稽古場の挨拶回りと、初釜と……あかん……松の内はちょっと身動き取れんで?大丈夫か?』

「ちょうどいいよ。僕も冬休みいっぱいはギャルソンだから。新学期始まったら、また、遊ぼ。」

忙しい宗真さんに、余計な心配をさせたくない。

僕は明るくそう言って、電話を切った。



大丈夫。

もうすぐ、明田さんも帰ってくる。

自分に暗示をかけるように、僕はそう思い込もうとした。



けど……。




冬休みの最終日、明田さんがフランスから帰国した。

明田さんがマスターへのお土産を持って純喫茶マチネに現れたのはお昼過ぎ。

「いらっしゃいませ。あ!明田さん!お帰りなさい!」

はしゃぐ僕とは対照的に、明田さんは僕を見て固まってしまった。

「びっくりした?似合う?」

僕は、パリのギャルソンっぽく、笑顔でポーズしてみた。

「……ああ。」

明田さんは目を伏せて、やっと相づちを打った。


……目の毒?

頬の紅潮と、気まずそうな口元が、僕には心地よかった。


でも、明田さんは……。


「おや、お帰りなさいませ。フランスは如何でしたか?寒かったでしょう?」

奥から出てきたマスターがにこやかに出迎えた。

挨拶を交わして、珈琲を注文してから、明田さんはマスターに向かって言った。

「今年度いっぱいで退職して、パリへ移住することにしました。」

え……。

早期退職……いやいやいや。

明田さんは、お父さんと同い年。

まだ早すぎる。

じゃあ、どうして?


明田さんは、特に何も説明しなかった。

僕は、納得させてほしくて、明田さんを見つめていた。

……でも、明田さんは頑なに僕を視界に入れなかった。


もしかして……僕が重荷なのだろうか。

……僕から逃げるのだろうか……。

怖くて、言葉が出ない。