小夜啼鳥が愛を詠う

いずれにしても、16歳のクリスマスイブは、幾つもの転機となったようだ。

僕がヒトの為に働くことを学び始めた日。

そして、かつて疑うべくもなく僕のモノだった少女が、ハッキリとこの手から飛び立った日……。

たぶん生涯忘れられない日の1日となるだろう。




『……何ちゅう顔してるんや……。』

元日の謡い初めの舞台を観た帰路、宗真さんから電話がかかってきた。

「あけましておめでとうございます。……ちゃんと普通の顔してなかった?僕。」

自分では普通のつもりだった。


『正月のめでたさが吹っ飛ぶ顔やったけど。大丈夫か?水商売、やっぱりストレスなんか?』

「いや?……お店のお手伝いは、むしろ楽しいよ?色んなヒトが来るんだ。身持ちを崩したギャンブラーとか、昔は船乗りだった老人とか。」


実際、僕は確かな手応えを得ていた。

やっぱり、あの店が好きみたいだ。

まだ1週間しかたってないのに、マスターは僕を信頼してくれてるらしく、本当にギャルソンの制服を買い与え、店の鍵もくれた。

さっちゃんママもまた、僕の分までお昼ご飯を作って持って来てくれるようになった。

……これは、椿さんの公演が忙しくなるとなくなってしまうらしいけど。

「むしろ毎日、幸せだよ。」

強がりじゃなく、本心だ。

なのに、宗真さんはため息をついた。

『今、どこや?』

……。

「でも、宗真さん、今日、これから同門のかたがたと新年会でしょ?いいよ。」

さすがに、そんなワガママは言えない。

僕は固辞した。

『……確かに、例年、このまま朝まで飲む日ぃやけど、……あんな顔、俺に見せといて、幸せって……。ないわ。』

宗真さんはそう言ってから、深く息をついた。

『俺には、取り繕わんでいいから。』

……ふわりと心が浮上した気がした。

確かに、僕は落ち込んでいたようだ。

毎日が充実していて……気づかなかったな。

……いや、気づかないふりをしていたんだろうな。


長年の願いが、ようやく叶おうとしている。

さっちゃんが薫を好きになり始めた。

あとは、薫の成長待ちだ。

時間の問題だろう。

うれしいことのはずなのに……。