小夜啼鳥が愛を詠う

店が開くと、常連さんがやって来た。

僕を見知ってるヒトもけっこういた。

みなさん、僕に興味津々のようだけど、マスターは僕がお客さまにつかまらないように気遣ってくれていた。

僕は、いつも見ていたマスターの立ち居振る舞いと言葉遣いを真似て、丁寧に応対した。



「……え?……光くん?何やってるんや?」

お昼前に訪れたおじいちゃんは、唖然としていた。

「いらっしゃいませ。……冬休みの間、お店のお手伝いをさせてもらうことにしました。」

おしぼりとお水を出しながら、おじいちゃんにそう報告した。

「……会社……継がんって聞いたけど……店、したいのかい?」

おじいちゃんにそう聞かれて、僕は苦笑して見せた。

「会社は、僕より薫のほうがいいと思います。……お店を経営したいというわけではありません。この純喫茶マチネが好きなので、お役に立てたらと思ってます。」

「……そうか。まあ、がんばりなさい。」

「ありがとうございます。」

おじいちゃんとは呼んでても、僕はこの小門成之さんと一緒に住んだことがない。

……いや、僕だけじゃなく、お父さんも、あーちゃんも、会社で会うだけだ。

この微妙な距離感が僕には心地よかった。



お昼前に、さっちゃんのママがやってきた。

「光くん!大丈夫?……やだ、ほんっとに似合うわね。すっごくかっこいいわよ。」

一応、人見知りの僕を心配してくれてるんだろうけど……面食いを自負されてるさっちゃんママはニコニコしていた。

「ありがとうございます。……大丈夫みたいです。」


実際、僕は、やたらニコニコできていた。

まるで自分じゃないみたいだ。

……彩瀬パパが助けてくれてるのかな。


「はい。これ。蝶ネクタイはシルクだけど、古いから、ボタンのあたりがちょっと薄くなってるかも。新しいの、すぐ届くから、それまでコレ使ってね。」

さっちゃんママはそう言って、僕に紙袋をくれた。

「蝶ネクタイ?……ですか?」

驚いて、さっちゃんママとマスターを見た。

「……昔、俺が使ってたやつ。とりあえず、間に合わせ。あげる。……光くんなら、間違いなく似合うから。」

マスターがそう言って、カウンターの奥の扉を指差した。

……着替えて来いってことみたい。