小夜啼鳥が愛を詠う

「それもあるかもしれません。……いや……それは、きっかけに過ぎないかな。以前から、このお店が好きでした。いつ来ても、マスターのおもてなしの心に癒やされてました。掃除も行き届いてるし。……僕は、自分のことでいっぱいいっぱいだったから……変わりたいんだと思います。」

自分のなかで、なかなか固まらない想いを無理矢言葉にしてみた。

まだ伝えきれないな。

「僕も、特定のヒトじゃなく、見知らぬヒトにまで優しくなりたいんだと思います。」

……優しい人間になりたい……さっちゃんのように……。

そういうことかな。

なんだ。

結局、さっちゃんに影響されてるんだ。

まあ、しょうがないよな。


マスターは、カウンター横の扉を開けると、黒い布を出して、僕に手渡した。

「じゃあ、これ。エプロン。……今日のところは、もう拭き掃除も終わったし……とりあえず、身支度して、グラスでも磨いてくれる?」

「ありがとうございます!」


受け入れてもらえた!

僕は、意気揚々とエプロンを広げた。

マスターがいつも付けている黒い長めの腰から下だけのエプロン。


一応、今日の服装は清潔感とカフェっぽさを意識して、コートの下は、白いシャツに黒いコーデュロイのジレ、黒いパンツを合わせてきた。

ジレも脱ごうしたら、
「や。それはいいよ。そのままで。……てか、さすがに……似合うな……。」
と、マスターが止めた。

「……ギャルソンっぽいですか?チップもらえそう?」

笑顔でそう尋ねると、マスターは真面目にうなずいた。

「もらえる。チップどころか、万札握らされるわ。……でも、気をつけや。売るのは珈琲と、この店内でのサービスのみやで。」

……笑えない。

何となく……マスターも、お金で誘われて来たんだろうなあ……と、伝わってきた。

マスター、変わってるけど、イケメンだから。

若い頃から相当モテた……と、おじいちゃんが言ってたっけ。


「わかりました。気をつけます。」

「ほなまあ、とりあえず、よろしく。」

マスターはそう言って、僕にグラスを磨く為の布を手渡した。