小夜啼鳥が愛を詠う

「……もし元旦、暇やったら……」

別れ際、宗真さんが口を開く。

「元旦?」

暇なわけがない。

……いや、実はやることは初詣ぐらいなんだけど……例年、当たり前に家族で過ごす日に、家を出てくるのは、それなりの理由がいる。

「ああ。まあ、無理ならいいんやけどな。毎年、会館で謡初(うたいぞめ)があるんや。所属する能楽師や狂言師が勢揃いするわ。有り得ない豪華な地謡とか、最近ご無沙汰のご高齢のかたとかも出て来られるから、どうかなと思って。しかも無料で、振る舞い酒もあるねん。」

「行く。」

思わず即答していた。


まさか僕がそこまでお能に傾倒してると思わなかったらしく、宗真さんは驚いていた。

でも、宗真さんとしては、うれしかったみたい。

笑顔で僕に釘を刺して帰って行った。

「……俺に見とれるなよ。まんべんなく舞台、見ぃや。光は目立つから。バレバレやで。」

……馬鹿馬鹿しいようだけど……まあ、宗真さんはイイ男だから。

目が追っても、しょうがないよ。

でも、確かに、シテさんほっといて、地謡さんのガン見は失礼かな?

気をつけようっと。




期末テストが終わり、冬休みが始まった。

……のだが、僕は余儀なく高校に登校させられた。

授業をサボり過ぎて、出席日数が足りないらしい。

試験は満点だし勘弁してもらえるだろうとタカをくくっていたんだけど……。


とりあえず補講という形で登校しさえすればいいと言われたので、図書室で読書をして過ごした。


せっかくの機会なので、謡曲集を熟読して暗記してみた。

ついでに、日本舞踊の本も手に取った。

長唄、清元、竹本、常磐津……ぐらいは聞いたことあるけど、他にもいっぱいあるんだなあ。

あ。

これ。

長唄の「吉野天人」。

へえ……謡曲と同じ詞じゃないんだ。

おもしろいな。


……あの子……どうしてるかな。

綺麗な子だったな。

童女なのに、妙に色っぽいというか……魔性……。


あれ?

何かが、引っかかった。


てゆーか、引っかかりを覚えたのは……僕じゃない?

彩瀬パパなの?


……彼女……何か、関係あるのかな?