小夜啼鳥が愛を詠う

「……そうなんだ。……そっか……宗真さんのお仕事、娘さんが継ぐってわけにはいかないか……。」

「まあ、もちろん女性の能楽師もいるけどな。……うちは……中でも、保守的やからなあ。……気持ちはわかるんやけど……こればっかりは……なあ。2人めがなかなか着床して育たんのも、涼花が昔、闇医者で中絶した時に中が傷ついて癒着したせいやって言われて……あいつも、俺も、お互いに罪悪感抱いてる。」

そして宗真さんは、やるせなそうに言った。

「他の女に産んでもらってもいいそうや。そのために、自分が身を引くのも、しょうがないねんて。……そんな非道なこと、できるわけないやん。」

「……うん。それで、宗真さん、他の女性とは、……しないって、決めてるんだ。……そっかあ。でも、もし、この先も男の子、産まれなければ……どうするの?代理出産とか?」

宗真さんは、肩をすくめた。

「いや。俺は、息子にこだわってへんねん。跡を継ぐんは娘の婿でもいいし、血にこだわるなら、孫でもいいし。……孫も女ばかりやったら、芸養子もろたらええと思ってる。仕方ないやん?」

意外だった。

伝統芸能の継承を使命に生まれ育ったヒトにしては柔軟な宗真さんに、僕はますます興味を抱き、惹かれ、依存した。





金曜日の放課後、ちょっとした事件が起こった。

……生徒会に勧誘されて下校時間が少し遅くなったさっちゃんが……サッカー部のチャラい先輩に、無理にせまられ、キスされた。

たまたま居合わせたので、すぐに引き剥がして助けることができたけれど、かわいそうに、さっちゃんはまるでレイプされたかのように、取り乱し、泣いた。


「さっちゃん。泣かないで。大丈夫だから。」

「……大丈夫じゃない……やだ……私……初めてなのに……」

さっちゃんはごしごしと、拳で唇と目尻をこすった。

力を入れ過ぎて、赤くなってしまってる……。

言葉と、頭を撫でて慰め宥めたけど……赤く腫れた目と唇に涙がキラキラと光って……僕の理性が飛んだ。

たまらず、僕は、さっちゃんの綺麗な目尻とかわいい唇に、そっと口づけた。


……しまった……。


ずっとずっと我慢してきたのに……。

とうとう、やってしまった……。

最悪だ。


僕は、何とか取り繕った。

「消毒。これで、もう、大丈夫。……でしょ?」

パニクってたさっちゃんを、なだめ、煙に巻き、その場を何とかしのいだ。


たぶんさっちゃんは、落ち着いてくれた。

でも……僕は……。




心の中に、しんしんと雪が降る……。

冷たい雪は溶けることなく積もってゆく……。


……寒い……。