小夜啼鳥が愛を詠う

「うん?まあ、そやな。……でも、頼政の軍勢はこの辺で平氏軍と激戦を繰り広げてんで。橋板をはずして。川も河原も血で染まったやろなあ。」

池上さんの言葉に、「頼政」の謡の文句を思い出した。

「宇治川の南北の岸に打ちのぞみ。閧の声矢叫の音。波にたぐへておびたゝし橋の行桁をへだてて戦ふ。……って謡い文句でしたよね。でも、大川って雰囲気じゃないなあ。水量はむしろ少ないような……。」

そうぼやくと、池上さんは少し驚いたようだ。

「……覚えてるんや?記憶力いいなあ。……すぐ上に、ダムがあるから。ダムのできる前は、よく氾濫してたらしいで。……宇治は、はじめて?」

「小さい頃に来た記憶があります。四年間だけ京都に住んでたので、その時に。花火を観に来たんですけど、ヒトが多すぎて身動きとれなくて……大変だった思い出しかありません。」

ここからなら、優雅に花火を楽しめるんだろうなあ。

もちろん、予約でいっぱいだろうけど。

「あー……花火はなあ……年々、すごいことなってるで。……観たいんやったら、うちのお稽古場に来るか?ちょうど対岸やし、まあ、近くで見えるで。夏休みやろ?」


池上さんの誘いは、とても自然だった。

でも、その瞳に……親切以上の好意が存在するのを、僕は感じた。

下心だ。

……うん……それも、いいね。


「はい。楽しみにしてます。」

勝手に頬がゆるんだ。


お互いの心を探り合うのに、時間も、言葉も、それ以上要らない。

びっくりするぐらい見晴らしのいい屋形なのに、僕らは不自然なまでに肩を寄せた。


お料理を運んでくださる中居さんの目を盗んで、どちらからともなく触れ合い、手を重ね、指を絡めた。


お料理はとても美味しかった。

でも、一番美味しかったのは……デザートの苺の香りの混じった池上さんの舌。


「……あかん。何で、こんなとこで、中学生男子に手ぇ出してるんや……。」

途中で我に返った池上さんの戸惑いが、僕には妙に心地よくて……。

「もう卒業しました。半月後には高校生男子。……だから……」

自分から池上さんの胸に頬をくっつける。

そのまま顔を上げて、池上さんを下から見上げた。

「……だから……?」

池上さんが苦笑まじりに僕を見下ろして、続きを促した。

僕からの言質を取れば、ストッパーは簡単にはずれるようだ。