小夜啼鳥が愛を詠う

「あるで。てゆーか、降りてくるんが、美女なら、むしろ俺もわくわくするしなぁ。昨日のお舞台は、おもしろかったわ。俺は天女にデレデレやし、天女は見所の光くんに興味津々やし。……空気、ピンクやった、って、さっきの友人に呆れられたわ。」

池上さんはそう言って、くすくすと笑った。

「さっきのご友人、西洋人に見えましたけど……日本語、お上手なんですね。」

「うん?トラさん?……そやな。俺らよりずっと難しい日本語しゃべってはるわ。けっこう有名な歴史文学作家だよ。」

へ?

驚いて池上さんをマジマジと見た。

池上さんは、ぱっとスマホを見て、それからいたずらっ子のように笑った。

「しまった。また怒られるわ。ごめん。トラさん関係は、全部オフレコな。……ランチOKやて。桜の開花前で客少ないし、貸切状態。あそこ。」

橋を渡りながら、池上さんが指差した。


ランチって……料亭?料理旅館?

……えーと……お金、足りるかな。


十中八九、池上さんがご馳走してくださるだろうけど、僕は一応、カードが使えるお店かどうかを確認しようと店内を見回した。

ら、池上さんが、さらりと言った。

「気ぃ使う必要ないで。未成年は、よけいなこと考えんと、オトナに甘えときぃ。……こんにちは。池上です。」

池上さんがお店の入口でそう声をかけると、中居さんが、そして、奥から女将さんが出て来た。

「まぁまぁ。池上さま。いつもありがとうございます。涼花ちゃんから、聞いてます。どうぞ。」

「いつも突然で、無理ゆーてすみません。ありがとうございます。」

池上さんは女将にそう言ってから、僕に教えてくれた。

「家内の実家がな、西陣の料亭なんや。せやし、俺では門前払いされそうな敷居の高い料理屋は、家内から電話してもらうねん。」

「……上手(じょうず)言わはるわ。知らんお人さんが聞かはったら、ヒモかなんかと、誤解されはりますえ。」

女将さんが、ころころ笑った。




案内されたお部屋は、お店とは別棟で、川にせり出して建てられた屋形だった。

けっこう広いけど、本当に誰もいない。

「優雅ですねえ。」

窓から川を眺めてそう言った。